小島寛之『数学でつまずくのはなぜか』

数学でつまずくのはなぜか (講談社現代新書)

数学でつまずくのはなぜか (講談社現代新書)


書名にあるとおり、まさしく僕が「数学でつまず」いた人だったので、どうしてだったのだ?と答えがほしくて読んだ本。負の数が「異形の数」だ(p.10)というところとか、虚数に初めて会ったときにまさに思ったことだったし、論理式がどうして数学?と思ったりとかもしたし、そう、こういうのがつまずくポイントだったよ!という感じでは読んだ。
ただ、いま、教育業界に身を置くものとして、どちらかと言えば、どうしたら「つまずいている生徒たちをすくい上げられるか」という方に興味があるので、その実務的なものがもう少し書かれていればいいかな、と思った。論理力を学ぶための、「誰が殺したクックロビン」ゲーム(p.99)*1は、すごいおもしろそうだと思うので、作ってみたいな、と思う。簡単にググってみたけど、見あたらないなぁ。

p.10
中学生になって最初に習う代数=負の数
小学校で習う数(整数、小数、分数)は、暮らしの中にもそれなりに出てくるが、マイナスの数というのは、「異形の数」だ。
ここで、こどもたちは初めて「イメージがわかないから理解できない」という困難に直面することになる。


多くの授業では、通りいっぺんの説明をしたあと、最終的に「規則を覚えればいい」的な押しつけがなされるので、それを従順に受け入れられるこどもはいいが、「納得した上でないと覚えることができない」という「原理的な頭」の持ち主はひどく苦しむことになるのだ。


p.39-40
文字式とは、一種のアルゴリズムやプログラム、あるいはソフトウェアのようなものだと理解できる。

このような文字式のとらえ方をこどもたちに理解してもらう簡単な演習問題:
生徒たちに次のような指示をする:

  1. 3ケタの好きな数をノートに書いてください。
  2. 同じ3ケタの数をつなげて6ケタの数にしてください。
  3. その6ケタの数を7で割ってください。
  4. さらに得られた商を11で割ってください。
  5. 最後に得られた商を13で割ってください。
  6. どうですか?元の数に戻っているでしょう?


どんな3ケタの数を使って計算しても結果は必ず元の数に戻る。
たいていのこどもはこの結果に驚き、不思議に思う。そして、その「驚き」に対して、謎解きをするには、文字式を用いるとよい。

「任意の3ケタの数x → (同じ数をつなげて6ケタにする) → 1000x + x =1001x → (7で割る) →143x →(11で割る)→13x→(13で割る)→x」


p.95-96

では、中高生が論理を学ぶとき、どう学んだらもっとよくわかるようになるのだろうか。それは「推論規則」として論理を理解することなのだ。
「推論規則」というのは、「論理文をつないでいくときに許される手続き」を集めたもののこと。具体的なイメージを持っていただくために、日常的な例をあげよう。次のような一連の文はわたしたちがよく使うものだ。
「そんなことをするなんて、君は頭が悪いか正確が悪いかどっちかだ」・・・(1)
「ところで君は、クラスで一番なんだから、頭が悪いことはないだろう」・・・(2)
「ということは、君は結局性格が悪い、ということだね」・・・(3)
これから「推論規則」だけを抜き出して抽象化すると、次のようなものになる。

【「または」の推論規則】
(PまたはQ)と(Pでない)から、Qを導いていい


p.97-98

論理を学ぶには、このように、「または」の用法、「かつ」の用法、「でない」の用法、「ならば」の用法を学ぶのが有用だ。なぜなら、これらの規則は、今見たように、そのまま証明文の中に現れる規則そのものだからである。
論理を真理値から理解する立場を「セマンティックス(意味論的)」というのに対して、このように「推論の規則」として理解する立場を「シンタックス(構文的)」というが、少なくとも数学における証明の理解に役に立つのは、セマンティックスではなくシンタックスの方だ。
中でもとりわけ、「ならば」の推論規則は重要である。なぜなら、ほとんどの証明は「ならば」の推論規則でつないで行くからである。

【「ならば」の推論規則】
Pと(PならばQ)から、Qを導いていい


p.99

ものごとの「真偽」は、現実認識と関わることなので、かなり成熟するまでは、「形式的な真偽」と「自分にとっての真偽」との区別がつけられるようにはならないだろう(実際、大人にもこの区別がついていない人をけっこう見かける)。しかし、推論規則はもの心ついた頃にはおおよそ体得しているのではあるまいか、そう思ったのだ。


クックロビンゲーム(中学1年生対象、推論規則の理解を試すゲーム)

  • 「こまどりクックロビンが殺された事件」に対して、多くの動物の証言からその犯人を捜し出す、というカードゲーム。
  • 道具として、論理文を書いたゲームを使う。全プレイヤーが最初に数枚から成る同じ1組のカードを持って開始される。最終的に、「犯人はスズメ」というカードを手に入れれば「ゲームセット」となる。
  • カードを手に入れる方法は、自分が現在持っているカードから推論規則を使って別の文を導くこと。その推論が正しければ、導かれたカードを手に入れられる。例えば、「(小さな目をしている)ならば(目撃者)」というカードと「ハエは小さな目をしている」というカードを持っているならば、この2つの文章から「ハエは目撃者」を導くことができる。
  • このゲームの最後の難関は「または」の用法を正しく捉えること。「(トビは棺を運んだ)または(ムネアカヒワはたいまつを運んだ)」というカードをどう使えば、次のカードを手に入れることができるか、それを見抜くこと。


p.108
小島寛之『数学ワンダーランド』で、世界の数理的記述、というような文章題を集めてある。


p.110

わたしたちを取り巻く世界には、いくつかの量がなんらかの理由で関連づけられている。それは「原因と結果」だったり、「一方が大きくなると他方は小さくなる」というような「相関関係」だったり、あるいは「時間に伴う変化」だったりする。関数は、世界の事物の関連性や変化を記述し、解き明かし、それらをコントロールするためのツールなのである。

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*1:パタリロ!』ではない・笑