尾木直樹/森永卓郎『教育格差の真実 どこへ行くニッポン社会』
教育格差の真実?どこへ行くニッポン社会? (小学館101新書)
- 作者: 尾木直樹,森永卓郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: 新書
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非常におもしろかったです。おいおい、本当ですか?と一次情報に当たりたい部分もたくさんありますが。貧困関係で言うならば、
- 年収200万円代が1023万人に達した
- 20代の非正社員率が50%近い
こんな状態で、派遣切りやらいろいろやったら、社会は当然不安定になる。派遣切りについては、そういう仕組みなんだから…と多少さめた感じで見ているのですが、それでも、それを選んでしまっている人が多いのは、リスクを考えることを教えてこなかった教育にも問題があるだろう、と思う。「働く」ってことは何なのか、政府とか社会って何なのか、もっと教えるべきなんじゃないかな。自分だけ良ければ…というミクロなところばっかりがんばり過ぎちゃったかな、と。
これで社会が不安定になれば、当然その不利益は社会の構成員全員が被るわけで。社会は公共財ですからね。となれば、どっかで何とかしなきゃいかんよな。癪だけどちゃんとサポートする制度を作るとかさ。
教育系では、愛知県の東海高校の話が出ていて、「学校文化」について話されています。これまた非常に興味あり。前職では愛知の隣県、岐阜で中学受験をする子たちを指導していたことがあるので、東海中学・高校は目指すべき学校として認識してましたが、こんな学校なんだね。おもしろいな。詳しく、いろいろ調べたいと思った。
以下、メモ。
p.16-17
尾木「
IT社会に生きる今の若者は、ホームページや掲示板などを使って自分の気持ちをすぐに社会に公開することができ、それに対してすぐに返事が返ってくる環境にあります。だから、自分の意見に対する他者の視線を意識する方向に走ってしまい、自分の中の葛藤を内面化することができないことを私は心配します。これでは思春期の発達がゆがんでしまう危険性が高いわけです。
」
p.23-24
森永「
それでは現代の平和と平等への試みとは何か。今、本当に必要な闘いは何かと言うと、新しい反資本主義の闘いというのは、連帯を否定しているわけではないのですが、一人ひとりができる範囲で、最大限のことをするという一種のゲリラ戦なんだと思うんです。
(略)一番問題なのは、若者たちは、弱肉強食思想が詰め込まれてしまって、なおかつ、それは自己責任だという名の下で自分の境遇を「自分がいけないんだよね」というふうに思い込まされちゃっていることですね。
それは、小さい頃からの教育のせいでもあると僕は思うんですけれども、自己責任でも何でもないのに、「僕がいけないから、私がいけないから仕方がないんだ」という考えが、逆に、ちっとも働かないで濡れ手に粟の大儲けをして、人の頭を踏みつけている人たちの生活を支えることになっているんだと思うんです。
」
p28
尾木「
中学や高校の現場の教師を長年やった私の経験から言うと、今の大学一年生の精神的な発達程度はちょうど中学三年という感じですね。もちろん、頭脳のほうはどんどん成長していますけれども、コミュニケーション・スキルとか、批判的な思考力だとか、空気を読む力にしても非常に低下している。親離れできていないのが一番大きな特徴ですね。
」
p.37
日本の課税最低限は先進国で一番低い?
↓
p.38
森永「
相も変わらず、「日本の法人税負担は高すぎる。企業負担は高い」と主張する。2007年11月の政府税制調査会の答申では、日本の企業負担は税制調査会がきちんと国際比較した結果、必ずしも高くないという結論を得たと政府の公式文書に書いてあるのに、嘘ばっかり言うんです。世の中の人たちを平気で騙しているんです。
」
p.46-47
日本の深化する格差社会のデータ(森永):
相対的貧困率(全国民を所得順に並べて、ちょうど真ん中の人の半分以下しか所得がない人の比率):第一位はアメリカ、日本は二位。次回の調査では、日本の貧困率がアメリカを抜くとも言われている。
雇用者報酬:2002年から2007年の5年間で、日本の名目GDPは22兆円増加した。しかし、雇用者報酬は5兆円減少している。そればかりか、資本金10億円以上の大企業の役員報酬が2倍になり、株主配当が3倍になった。
森永「
こんな結果がもたらされるのなら、経済成長をして、何の意味があるんだと僕は思うんです。一部の人たちはすごくいい暮らしをして、国民生活は下がるという劇的な変化が起こっているんです。
この数字の背景にあるものは、経済界が推進した、正規雇用を非正規雇用に切り替えることでコストを削減し、企業の競争力を高めるという考え方です。人件費がどんどん削られた結果、派遣社員や契約社員、そしてパートタイマーへの切り替えが加速度的に進行したんですね。現在、非正規雇用の人は1670万人に上ります。要するに、非正規雇用を増やしたことで浮いた金は、資本家階級が総取りした格好です。
」
p.48
森永:
日本の社会は所得の二極化が起こっている:
年収200万円代が1023万人に達したが、一方で年収1000万や2000万円の人も大きく増えている。
p.123
尾木:
東海高校(愛知)はすごい:
・東大合格者ランキングでも34人で15位(2008年)。医学部にも70〜80人も入る。
・完全週休2日制、週30コマだけしかやっていない。
・インセンティブがものすごく上がる学校教育の組み方をしている。総合的な学習に力を入れている。
・愛知サマーセミナーの実行委員もフルパワーでやる高校生たち。横の連携がいい影響を与えている。
↓
p.125-126
尾木「
私が招かれたときの分科会では、「うちの学校(東海高校)は、先生方も週五日制で、30コマしかやらない。それをやっているから進学実績が落ちるとは言わせたくない」と当の高校生自身が言うわけ。「だから、頑張る」と。そして、学校五日制になった2003年以降、実際に進学実績も上がってるんですよ。
だから、学力を上げていくというプロセスは、何も数学をたくさんやればいい、英語をたくさんやればいいというだけではなくて、そういう棲みかとしての学校文化はどうなっているのかがきわめて大事です。これはヒドゥン・カリキュラムと教育学では言いますけれども、表向きの授業時数などではなくて、隠れたカリキュラム、学校文化ですね。それが特に中学生、高校生は思春期ですから、精神的にもそういうものを求めている時期なんです。その精神発達の特性とかみ合った形で、ある意味では理想かもしれませんが、そういうアプローチが重要だと私は考えているんです。
」
p.176
24歳以下の若者の50%近くが非正社員
↓
p.177
森永「
僕がもう一つ、すごく心配していることがあるんです。それは正社員の壁の問題です。シンクタンクで労働関係の調査をずっとやってきた関係で、調査のついでに、企業の人事部の人に、「30歳までずっとフリーターとか非正社員で、一回も正社員経験のない人を、30代になってから中途採用で採りますか?」と、僕は直接聞いて回ったことがある。30社ほどに聞いたんですが、一社も「採る」と解答した企業がないんですね。(略)
つまり、30歳まで非正社員でいっちゃうと、もう正社員の世界に戻れないんですよ。だから結局、低賃金で死ぬまでいくという階層が、ほぼ確実にできてしまうという世の中になるので、だから私は、今すぐ、少なくとも日雇い派遣は全面禁止にすべきだと思う。
」
p.180
尾木「
教育段階での負け組の存在を見て、何を考えるかです。中央大学教授の山田昌弘さんは、「パイプラインの漏れ」と表現しているんですが、まず高校進学のときにこぼれ落ちる、これが4〜5%。今度は高校中退でこぼれ落ちる、これが約10万人。次の大学進学のときには約半数がこぼれ落ちる、また、大学も卒業できなくてこぼれ落ちる。さらに、「七・五・三現象」というのですが、社会人になってから中卒の七割、高卒の五割、大卒の三割が三年以内に会社を辞めてこぼれ落ちる。日本がこれまで大切に、順調につくり上げてきたパイプラインが壊れてきて、そこからバラバラとこぼれ落ちる人が増えてきた。
」
p.181-182
森永「
ものづくりというのは、実はかけ算なんですよ。一個でも欠陥品があると、例えばどんなにほかが優秀でも、ブレーキが壊れていたらその車はダメであって、全部が完璧に高いレベルをクリアしていなければならないんです。だから、のぞみとこだまをつくるよりも、みんながひかりコースの方がいい車ができるんですよ。欲を言えば、のぞみコースのゴール近くまで引き上げる教育でなければならないと思う。なぜかと言うと、みんなの知識や教養のレベルが一定の水準をクリアしないと、阿吽の呼吸による仕事ができないんですね。
」