中野民夫『ワークショップ 新しい学びと創造の場』

ワークショップ―新しい学びと創造の場 (岩波新書)

ワークショップ―新しい学びと創造の場 (岩波新書)


授業企画のときに、「ワークショップ」っていう手法をけっこう考えることも多いのですが、ふと気づくと、「ワークショップ」のちゃんとした定義を知らないなあ、と思ったので新書でお勉強開始。
「ワークショップ」って、いろいろなところで使われているのね。ちゃんと背景まで勉強できたのは良かったかも。

あと、事例として紹介されている「トランスパーソナル心理学」とか「ワールドワーク」とかはすごく勉強してみたいな、と思った。

以下、メモ。

p.4
CIIS(カリフォルニア統合学研究所)
「組織開発・組織変革(ODT)学科長 ハワード・シェクター

学科の学生なら誰でも参加できる「サークル」という場:
・「トーキング・スティック」という木の棒が輪の真ん中に置かれる。これをもっている人だけが話すことができる=ネイティブアメリカンの伝統
・「話したい」と思った人が棒をとって、心のそこから話す。
・他の人は、その人の話が終わるまで遮ることなく全身でその人の話を聴く
・お互いに深く耳を傾け、「傾聴」しあう場が自然にできてくる


p.6
サークルの原型は、


この輪のまん中には、中つ火ができます。みんなが持ち寄った様々な経験や知恵などが薪となります。お互いに敬意をもって聴こうという気持ちが発火剤になり、他の人の話をよく聴くことで理解の火花が散るのです。こうしてまん中の薪に火がつく。そして炎は常に動き変化していきます。私たちの理解が大きくなって中つ火から煙が立ち上ると、遠くにいる人たちにも私たちがここで学んでいることがわかります。私たちは、ここで輪になって座り、火から暖をとります。人がそれぞれ同じだけの価値があるとわかったとき、この輪は完璧なサークルとなる。だからこそ中心の中つ火から等しいきょりで、輪(=サークル)になって座るのです。

(ポーラ・アンダーウッドさん 『一万年の旅路』の著者)


p.12
ワークショップの要点
・ワークショップに先生はいない
・「お客さん」でいることはできない
・初めから決まった答えなどない
・頭が動き、身体も動く
・交流と笑いがある


p.18
ワークショップを4象限に分類
→縦軸に創造(能動的)&学び(受容的)
→横軸に社会(外向き)&個人(内向き)

この4象限で、分類することができる。
アート系、社会変革系、教育・学習系などをプロットしていく


p.59
ワールドワーク
アーノルド・ミンデルとエイミー・ミンデル「トランスパーソナル心理学
・社会問題を扱うグループアプローチ
・多様なバックグラウンドの参加者たち
・役割(ロール)と見えない役割(ゴースト・ロール)の視点をベースにしている
・人びとの対立や無意識な差別が、個人を越えた社会や世界の現れであることを明るみに出す
・ミンデル『火中に座す』


p.69
「あなたはどう感じているの?」=How do you feel?
と、クラスで聴く。それぞれが自分の気持ちを語る


p.95-99
「自分の天職って何だろう」というワークショップ

大ウソつき大会

さて、今から自己紹介をしていただきます。ただし、ウソの自己紹介です。思いっきりありもしない大ウソをついてください。たとえば『私は実はハリウッドの大スターです』などという風に。そして『この仕事をしていて楽しいのはこういう時です』という点も加えてください。あまり考えないで、口から出てくるにまかせて、どんどん大ウソをついてください。合図をするまで何度も回してください


次に「うわさ話」の時間
・一人が輪の外に向いて皆に背を向ける
・残りの人は、その人が話していたウソから、実際は初対面でよく知らないその人がどういう人なのかをひそひそと「うわさ」する
・うわさされている人は、そのうわさ話を自分でメモしていく
・大ウソをついたつもりでも、ウソをめぐるうわさ話は、自分の性格のある部分を実によく言い当てたものになっている


★大ウソつき大会
=自分が純粋にやりたいと思っていることを思わぬ方角から探るためのエクササイズ
=純粋意欲

「私にとって『仕事』とは」どういうものかを、
何かの「たとえ」で語ってもらう
「道場」「上着」「ハートの半分」「殻」などなど
※固定観念をすてるための試み


p.102
大ウソつき大会やうわさ話をした後に、「名刺」を作る
・「海と瞑想とアートをつなぐ、マーメイド」
・「ストーリー伝えたがり屋」などなど
※クラフト・エヴィング商会『実はわたくし、こういうものです』みたい


p.138
西田真哉(聖マーガレット生涯教育研究所)

体験学習法の前提条件
・学習者(参加者)中心の学習
・体験は理論との統合によって概念化されさらに活かされる
・知識の蓄積でなく、「学び方を学ぶ学習」であること

体験学習法の循環過程
1.体験する
2.指摘する
3.分析する
4.概念化する


p.146

健全なワークショップの事前の準備にあたっては、できるかぎり様々な状況を想定し、複数のアクティビティ案を用意するなど何通りかのプログラムを考え尽くしておくべきである。しかしいったん本番が始まったら、事前に準備したプログラムにこだわりすぎず、その場の状況をよく読んで、臨機応変に対応することが大切だ。参加者からの提案や、そこで起こってきたプロセスを大切にして、予定にはこだわらずに流れに沿っていく方が、学びは深まる。プログラムの準備を熱心にすればするほど、そのとおりに進行したくなりがちだが、「人事を尽くして天命を待て」といつも心がけている


p.147
ファシリテーターであるために望ましい条件
1.主体的にその場に存在している
2.柔軟性と決断する勇気がある
3.他者の枠組みで把握する努力ができる
4.表現力の豊かさ、参加者への反応の明確さがある
5.評価的な言動はつつしむべきとわきまえている
6.プロセスへの介入を理解し、必要に際して実行できる
7.相互理解のための自己開示を率先できる、開放性がある
8.親密性、楽天性がある
9.自己の間違いや知らないことを認めることに素直である
10.参加者を信頼し、尊重する


p.168-169

ワークショップで温かくて気持ちのよい思いをすることはとても貴重なことだ。しかし、ワークショップは、ひとつの出発点なのだ。ゴールではなく、学びや創造の手段であり方法である。そこでの学びを活かして、日常の現実にこそ取り組んで変革したり、深めたりしていかなければ意味が半減する。
(略)
大切なのは、言うまでもなく、現実の日常生活である。夫婦や家族、友人や同僚など、身近な人間関係や、自分の仕事や活動やプロジェクトの現場で、どのように少しずつ学びを活かせるか、こそが問題である。
(略)
もちろん、ワークショップで学んだことが、すぐそのまま現実に活かせるとは限らない。すぐにはわからないこともたくさんあるし、自分の中で体験を深く熟成させる期間が必要なこともある。しかし、「体験」というのは不思議なもので、頭で記憶していなくても、何かの拍子に浮上してくる。貴重な体験というのは、むしろあとでじわじわいい形で思い出されたり、効いたりしてくるものだろう。だから、そのときうまく理解できなくても、整理できなくても、心配しなくていい。極端な話、一度すっかり忘れてしまってもいいのかもしれない。それでも残る体験を味わい、深め続ければ十分なのだ。


p.171
ワークショップの亜種、洗脳のプロセス
1.まず、参加者を日常の世界から引き離し、隔離された状態に置く
2.精神的に空白の状態に追い込んでいく
ワークショップでは、固定概念からの開放
洗脳では、不眠不休などの状況を作る
3.そこに教義や思想、イデオロギーを徹底的に注入する
ワークショップでは、自分自身の感じ方や考え方をはっきりさせていく
自分自身の感覚を大切にしていく
洗脳では、我を失うように強制する
4.思い切って壁を乗り越える体験をさせる