茂木健一郎『プロフェッショナルたちの脳活用法 2 育ての極意とアンチエイジング』

プロフェッショナルたちの脳活用法〈2〉育ての極意とアンチエイジング (生活人新書)

プロフェッショナルたちの脳活用法〈2〉育ての極意とアンチエイジング (生活人新書)


「育ての極意」と銘打っている部分がおもしろい。

簡単に答えを教えずに、まず自分で考えさせるという指導をしていると、生徒たちの「知りたい」という欲求が高まっていく。その結果、生徒たちの脳の中では答えを受け入れるための準備が始まる。記憶のシステムの中に空白が生まれ、その空白を埋めてほしいと脳が待ち望んでいる状態になる。イメージでいうと、ジグソーパズルの最後の1ピースを探しているようなものだ。
育て方というのは、子どもの記憶システムの空白を、「どんな答え」で、「どんなタイミング」で、「どんな方法」で埋めるかということだと考えていい。(p.52)

英語塾をしている竹岡先生が言う。まさしくそうだよね…。「生徒たちの脳の中では答えを受け入れるための準備が始まる」=レディネスっていうことだよね。ちょっと改めて取り組んでみたいテーマだな。例えば「正義」とか「公平」とか「平和」みたいな抽象的なことを考えるようになるレディネスって何だろう、と考えたい。

挑戦する心を培うためには、脳の働きを大きく左右するひとつの概念が重要になってくる。それが「安全基地(セキュアベース)」の存在である。
安全基地については、(略)、もともとは乳幼児の成長を研究する過程で注目された概念のことだ。乳幼児にとっては、やることのほとんどが初めての経験ということになる。毎日が未知への挑戦の連続であるわけだが、その行動を可能にしてくれるのが、自分を見守っていてくれる保護者という安全基地の存在だと考えられている。(p.57)

保護者が、子どものやることや考えることを、ちょっと我慢して待ってやることが大事、ってことです。大怪我しない限り(もちろん、させない限りでもある)、いろんなことに挑戦してみるといい。子どもの頃にたくさんの引き出しを開けてみたらいいさ。僕は子どもの頃から引っ込み思案というかプライドが高かったから(苦笑)、いろいろやりはしなかったけど、息子にはいろいろしてもらいたいな、と自分かってなことを言ってみる(笑)
以下、メモ。

p.18

自分から進んでやる場合と、強制されてやる場合とでは、脳の働き方は天と地ほども違ってくる。自分の幼少期を思い出してみるといい。時間を忘れていつまでも遊んでいられたのは、「遊ぶ」という行動が親の言いつけではなく、自分の意思によるものだったからだ。
自発的な行動のほうが脳はより集中するし、持続力も発揮できる。学習も同じことで、子どもの自発性に任せたほうが、感じる喜びも大きく、記憶へも強く刻まれる。その学びの中枢ともいえる回路は、脳の前頭葉を中心とした部分にあり、その回路は大人になっても失われることはない。


p.29

荒瀬さんが仕事場である公立高校で取り組んだのは、特別な受験対策をすることではなく、生徒の「知りたい」という気持ちを育てることだった。平成11年、堀川高校には、「人間探究科」「自然探究科」という学科が創設された。ふたつの学科に共通して、生徒が自分で決めたテーマを徹底的に勉強できる「探究基礎」という科目も新設。このカリキュラムによって、自発的に学ぶことの喜びを生徒たちの心に芽生えさせた。

「探究する心は、子どもたちの中にあるんです。その心を開いて、『もっと知りたい』『もっとやってみよう』と子どもたちが感じられることに取り組んでいこうとすると、時間がかかります。しかし、その探究心が人間を成長させるものだと思うんです。ゆとり教育という言葉がありますけれども、本当に必要なのはゆとりを与える教育ではなく、ゆとりを持って見守る教育だと私は思うんです」
荒瀬克己 校長


p.51
竹岡広信さん(英語講師・竹岡塾)「
「本当にいい質問を生徒がしてきたときというのは、学習のチャンスなんです。ですから、そのチャンスを逃したくないんですよ。資料を家に取りに行く時間があれば、もっとたくさんのことを教えることもできますけど、そんなものは教える人間の自己満足でしかない。それよりも、生徒の記憶に残るような教え方をすることのほうが大切だと僕は思うんです。」


p.52

簡単に答えを教えずに、まず自分で考えさせるという指導をしていると、生徒たちの「知りたい」という欲求が高まっていく。その結果、生徒たちの脳の中では答えを受け入れるための準備が始まる。記憶のシステムの中に空白が生まれ、その空白を埋めてほしいと脳が待ち望んでいる状態になる。イメージでいうと、ジグソーパズルの最後の1ピースを探しているようなものだ。
育て方というのは、子どもの記憶システムの空白を、「どんな答え」で、「どんなタイミング」で、「どんな方法」で埋めるかということだと考えていい。


p.57

挑戦する心を培うためには、脳の働きを大きく左右するひとつの概念が重要になってくる。それが「安全基地(セキュアベース)」の存在である。
安全基地については、(略)、もともとは乳幼児の成長を研究する過程で注目された概念のことだ。乳幼児にとっては、やることのほとんどが初めての経験ということになる。毎日が未知への挑戦の連続であるわけだが、その行動を可能にしてくれるのが、自分を見守っていてくれる保護者という安全基地の存在だと考えられている。


p.61

安全基地がなければ、人間の脳は挑戦することはできない。周囲の目には孤独な戦いのように映るチャレンジでも、本人の心(脳)の中には支えとなる安全基地が必ず存在しているはずだ。


p.90-91

迷いがなければ、上司から与えられたプレッシャーや少し無理のある課題を、脳は「自分が成長する糧」と認識することができる。そして、困難を乗り越えようと、自発的に挑戦する回路を働かせる。これは前書『プロフェッショナルたちの脳活用法』でも書いた「オーバーロード(過負荷)理論」に基づく育成法だが、「やったことはないが、頑張ればできるかな」というくらいが、脳にとっては一番受け入れやすい課題といっていい。
そして、少し無理のある課題には、人間のやる気を引き出す効果もある。仕事に対する情熱というのは、じつは苦しいときほど湧き上がってくる。自分の部下の足が止まりそうになっているとき、たとえば退屈な素振りを見せていたり、仕事に対して疑問を感じていたりするようなときは、新しい任務や、普段よりも難しいテーマを与えてやることで、部下のモチベーションを高め、成長を促すことができる。


p.91

人間の脳は目標を設定すると、いまの自分の能力との「誤差シグナル」を計算する。そして、その誤差シグナルを小さくするような努力をする。


p.176

話が弾み、相手と心が通じ合っていると思えるような状況に、脳は大きな喜びを感じる。すると、中脳にある感情の回路が刺激され、「うれしいことをやっている」という信号が前頭前野に伝わり、活性に拍車がかかるのだ。