デイジー・ウェイドマン『ハーバードからの贈り物』

ハーバードからの贈り物 (Harvard business school press)

ハーバードからの贈り物 (Harvard business school press)


ハーバードのビジネススクールでは、最後の授業で教授が学生たちに言葉を贈っていく。その最後の言葉を15編収録している本。ハーバードのビジネススクールですから、エリート予備軍。リーダーとしていかにあるべきか、と言う言葉が多い気がしますが、とてもいい話が多い。
最後の授業の締めって、先生をやっていていちばん楽しいところであり、大事なところ。いつか、どこかのクラスで最後の言葉を贈ることがあるなら、自分は何を言うだろう、と考えながら読みました。
ちなみに、今まで自分が贈られた言葉の中で、いちばんジーンと来たのは、竹中先生の「You can do it.」でしょう。そして、この言葉は生徒たちに贈ったこともあるな(笑)こうして、言葉は引き継がれていくのです…。

以下、気に入った部分などメモ。でも、全部読んでみるといいと思いますよ。

■「自分らしくあれ」リチャード・S・テッドロウ
p.61-62

私人としての自分と職業人としての自分を区別すること、言いかえれば、自分は何者かということと、何をする人間かということの間に、微妙な一線を引くということである。


p.62-63

アイデンティティを区別することには、大きなメリットがある。そのうちのひとつは、プライバシーを保てるという点だ。大学の教授であれば、一度に100人かそれ以上の学生を教えることになる。学生は基本的には他人なのだから、その前で自分が見世物になっているとか、自叙伝のコピーを配っているような気分にはなりたくない。だから朝、教室に入っていくときには、ペルソナ--つまり、自分に似た自分らしい人格--を持っていると役に立つ。もっともペルソナというのは、決してまやかしの自分ではない。だが同時に、本当の自分でもない。本来の自分とは違う、言わば仕事用の自分なのだ。
そうすることで、仕事と私生活を、一種の浸透性のある仕切りで分けておくことができる。両者を区別すると同時に、その間を行ったり来たりすることも可能だ。こうしておけば、公と私という生活の2つのエリアが互いに排他的になることはないし、仕事の用のペルソナと本来の自分との間を行き来するのに、スイッチを入れたり切ったりする必要もない。しきりに浸透性があるので、自分の好きなとき、周囲の状況を見て、「本当の自分」を「仕事用の自分」に入り込ませることができるのだ。(略)
仕事用のペルソナを持っていれば、キャリアを築く過程で周りから浴びせられる批判や攻撃に持ちこたえることができるし、内なる自分が傷つくことを最小限にして生きのびることができる。


■「黒か白か」トーマス・K・マックロウ
p.79

たったひとつの見方で世界をとらえることに安住しないでほしい。物事を黒か白かで見るレンズは捨てよう。自分の過去を見つめ、今までの歩みをふり返り、自分の考え方はどこからきたのかを理解することだ。黒と白との間にもさまざまな色があることに気づき、それを理解すること。それこそが、的確な判断をもたらすのだ。


■「キャサリン・ヘップバーンと私」ロザベス・モス・カンター
p.123

ある状況に入ったとき、まず二言三言、よく考え抜かれたフレーズを口にし、それによって場の主導権を握る。これはリーダーシップに必要な資質のひとつだ。有能なリーダーは他の人に先んじてその場の状況を見きわめ、障壁を乗り越え、互いの相違点や別の事柄に逸れがちな注意をビシッと本筋に引き戻す。自分が何をやろうとしていて、なぜそれをするのかを、誰もが共感でき、聞き手が集中しやすく行動に移しやすい方法、相手にモティベーションを与える方法で伝える。リーダーは自分と聞き手との間に横たわるギャップを生め、そこに橋を架けて自分の考えが容易に受け入れられる環境を作り出す。そしてこれらのことすべてを、声という力を使って行うのである。
ここで言う「声」とは、会ったばかりの人との間に確固とした結びつきを築いたり、こちらの話を聞こうとしているグループとの間に意思疎通を行う能力を意味する。リーダーが直面する最初の課題は、聞き手の注意をひきつけることだが、そのための時間はたいがいほんの数分しかない。


■「今という瞬間を生きよ」フランシス・X・フライ
p.143

教授となった現在、私は学生たちに、自分がバスケット選手時代にわかっていなかったことを理解させたい--もちろん、膝を手術したり、アイデンティティの危機に陥ることなしに--と願っている。今、ここで体験していることには終わりがあるということ、そしてだからこそ、今という時間を味わい、大事にしてほしいということだ。長い一生から見ればほんの束の間の体験、とりわけ学生としても将来のリーダーとしても大きな期待をかけられるこのハーバードという環境での経験を大切にしてほしい。ここですごすのはたった二年間、取れる科目の数も、何かを学び達成するチャンスも限られている。あっという間に終わりがやってくる。だから私は学生たちに手を差しのべ、この学校が彼らにかける大きな期待を、目に見える形ではっきりと指し示す。授業に出てきた学生が、大学(そして同級生たち)が彼らに求める基準をいやでもクリアできるような授業の進め方をする。間違っても時間を無駄にしたり、講義をおろそかにできないように。学生は全神経を集中して授業に参加し、貢献することを余儀なくされる。今という瞬間を生き切らなければならないのだ。


p.146

チームの一員として何かに取り組むのであれ、プロジェクトを率いるのであれ、家族を養うのであれ、あるいは会社を起業するのであれ、あなたを取り巻く環境や人びとはあなたの仕事やふるいまい、そして人間としてのあなたに高い期待を寄せるだろう。もちろん、そうした期待に沿うよう努力すべきである。比喩的に言えば、きちんと準備をして授業に臨み、背筋を伸ばして席に座ることだ。そして、期待されるということの意味も考えてほしい。それは特権なのだ。高いレベルを求められ、他人をリードするチャンスを与えられるのは名誉なことである。期待に応えるチャンスを与えられるたびに、チャンスを与えられたことを感謝し、大事にすることだ。

(略)

そのチャンスを利用して、リーダーとしてあなたに寄せられた大きな期待--特権--を形にするのだ。そして、ほかの人びとにも大きな期待という贈り物をしよう。たゆまぬ努力によって目標を達成するよう励まし、自分にもこれだけのことができると、自分にも他人にも実証させるのだ。それによって、永遠に続くものはないということを教えるのだ。バスケットのシュート一本一本、講義やプロジェクトのひとつひとつをおろそかにせず、自分の抜きん出た能力を示し、リーダーシップをとるチャンスとして大切にすること。それこそが大事なのだ、と。
その瞬間を生き切るということこそが。