ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』

「みんなの意見」は案外正しい

「みんなの意見」は案外正しい


どっかで、「みんなで考えればいいアイデアが出るじゃないか」と思っていて、それが本当にそうだなあと納得したり、そんなことないやって思ったり、行ったり来たりするのですが。真正面からそれを考えてみた本。いろいろな事例が紹介してあっておもしろいです。学校とかで民主主義を教えたり市場経済の仕組みを教えたりするときに、実例として教室で実験してみたい例がいくつかあったので、メモ。

p.106-107
1958年 社会科学者のトマス・C・シェリングの実験
・ニューヨーク市で誰かと会わなければならない。どこでその人に会えるかわからないし、会う前にその人と話す手段もない。さて、どこに行けばいい?
→いい答えなんてなさそうな問題なのに、大多数の学生がまったく同じ場所を選んだ(グランドセントラル駅の案内所)

・「いい感じがする数字を挙げてください」
→被験者である学生の40%が「1」を選んだ


選択肢が一見無限にあるようでも、人々は非常にうまくお互いの違いを調整する。
(略)
どうすればこんなことが可能になるのだろうか。シェリングは、多くの場合には人々の予測が収斂する、ランドマークのような目立つ焦点が存在していると考えている。今日、こうした焦点は「シェリングポイント(暗黙の調整)」として知られている。
シェリングポイントが重要な理由は、いくつかある。まず、中央権力からの指示はもちろん、お互いの意思疎通刷らなくても、人々が集合的なメリットのある結論に到達できる可能性を示している。
第二に、シェリングポイントが存在しているという事実から、人々が生きている日常世界、個人が体感しているリアリティは驚くほど似通っていて、それゆえに調整が成功しやすいと考えられる。事前の打ち合わせなしにグランドセントラル駅で会えるということは、どちらにとってもグランドセントラルが同じような意味合いを持っていたからだ。


p.118
経済学者、バーノン・L・スミスの実験(1956年)
・22人の学生を選んで半分は売り手、もう半分は買い手に分ける。
・売り手には売ってもいい最低価格が記されたカードを、買い手には買ってもいい最高価格を記したカードをそれぞれ渡す。
・学生間の需要と供給の曲線を計算し、市場がどの価格に落ち着くか割り出した。


スミスがこの実験を行った理由は単純だ。経済理論は売り手と買い手が取引を始めると、両社は短期間のうちに一つの価格に落ち着くと予想する。この価格こそが重要と供給が均衡するポイントであり、経済学者たちに市場決済価格と呼ばれている。スミスは、経済理論が現実に当てはまるか調べたかったのである。
調べてみたら理論は現実に当てはまった。実験市場で出されたオファーは、短期間のうちに一つの価格に落ち着いた。学生たちは自分のカードに書かれた価格の情報以外は持っていなかったのに。(略)スミスは市場が取引を通してグループ全体の利益を最大化したことも発見した。情報を完全に把握している人が指示を出しても、これ以上の好結果は出せなかっただろう。


p.127
最後通牒ゲーム
・2人1組を作り、2人の間で分けるべく10ドルが与えられる。
・2人のうち配分者と呼ばれる人が配分の比率を決める(1対1、7対3など)。
・配分者は受益者と呼ばれるもう1人に、のるかそるかの提案をする。受益者ははねのけてもいい。
・提案を受け入れた場合、2人とも提案に沿った比率で分配された現金をもらえる。提案が拒否されたらどちらも1セントももらえない。
・2人とも合理的なら、配分者は自分に9ドル、相手に1ドルをあげる提案をし、受益者は1ドルでも提案を受け入れる。どんあ配分比率でも、受益者は提案を受け入れさえすればなにがしかの金銭を受け取れて、拒否したら何ももらえないのだから当然。


実際にやってみると、相手に渡す額が2ドル以下の提案は悉くはねのけられた。これが何を意味するか、ちょっと考えてほしい。相手が自分よりずっとたくさん現金を持ち逃げするくらいなら、自分も相手も一銭ももらえないほうがいい。強欲で、自分勝手だと思われる行動に制裁を加えるためなら、自分の取り分はなくなってもい。崇高にも人々はそんなことを思っているらしい。
配分者もこういう反応を予想している。その結果、配分者は相手に少額しか与えない提案は最初からしない。実際、最後通牒ゲームでいちばんよく見られる提案は5ドルだ。
さて、このゲームに見られる振舞いは、合理的な存在としての人間からは考えられない。ゲーム参加者は自分にとって物質的にベストな選択をしていない。賞金の額を増やしても人々の行動にほとんど変化は見られなかった。日本、アメリカ、フランスなどの先進国だけでなく、インドネシアのように、少額でも取り分が3日分の労賃に相当するような国でも、少額の提案は拒否された。
人々は報酬が「公平」であるかに関心がある。


p.177
現代の科学における、「協力」が果たす役割の大きさ:

1966年に592人の科学者の刊行物や研究活動が調査された。D・J・デソラプライスとドナルド・B・ビーバーは「もっとも多作な科学者は共同研究の機会も圧倒的に多く、彼に続いて多作な科学者4人のうち3人は共同研究の数も彼に続いて多い」ことを発見した。ハリエット・ズッカーマンはノーベル賞受賞者41人と同じようなポジショニングの科学者を比較し、ノーベル賞を受賞していない科学者よりノーベル賞を受賞した科学者の方が頻繁に共同研究をしていると発見した。


p.211
ZARAのまったく新しいシステム
・世界各地にある600という店舗に季節ごとではなく、週2回デリバリーをする。
・通常は年に200〜300−種類の商品をつくるところ、ZARAは2万種類近くつくる。人気のないデザインは1週間もしないうちに棚から姿を消す。
・店舗マネージャー全員が持っている携帯端末は、同社のデザインルームに直結していて、彼らは顧客が買っている服、人気のない服、それに顧客がほしがっているけれど店頭にはない服を毎日報告する。
・服をデザインしてからたった15日で店頭に並ぶ(通常のアパレルでは、デザインから6ヶ月後か9ヶ月後だ)

巷で人気のデザインの廉価版が確実にZARAで買えるということ
「世界でもっとも革新的で破壊的な小売業者」(LVMHのファッション・ディレクター ダニエル・ピエットによるZARA評)


p.212

ZARAにとって柔軟性は重要だ。柔軟性があるからこそ、小売業者の最大の悪夢、誰もほしくない商品の山が避けられる。ZARAはどんなときでも1か月分程度の在庫しか抱えていない。これはファッション業界の基準に照らすと、驚くべきことだ。たとえばGAPは3か月分以上の在庫を抱えているので、売れ筋を読み間違えると店頭に値引きされた商品が大量に並ぶ事態に陥る。ZARAは商品を短期間で売るので、在庫が少なく、低価格で商品を売れる。何よりその商品展開のスピードは顧客を飽きさせない。