福沢一吉『議論のレッスン』

議論のレッスン (生活人新書)

議論のレッスン (生活人新書)


議論の仕方なんて、正直学校で習ったことがなかった気がする。どうやって人に伝えたら、どうやって物を書いたら、人に説得力を持って伝わるのかなんて、全然習ってない。でも、社会に出たらすごく必要なスキルだ。何が本質的に問題になっているのか、ちゃんと読めなくちゃ、政治家の質疑応答だって何が問題なのかわからないし、自分が何をかんがえなくちゃいけないのかだってわからない。そんなのはいやだと思うんだよ。
昔、予備校の英文速読講座でこの本で紹介されているような議論の構造を習ったことがある。それをベースにして、いま、仕事をしている中学校の2年生と3年生で、議論の組み立て方(型)を教えている。先生方にはなかなか好評。生徒たちにはまだしっくり来ていない…という状況です。まだがんばらなくちゃ。ずっと、出典とかを知らずにいたんだけど、この本で予備校で習った議論の構造がもっと詳しく紹介されていた。そっか、トゥールミンという人のモデルだったのね…。すごい勉強になりました。

以下、メモ。

p.27
議論スキルとは何か?
1)発言者の主張が明示されている
2)発言者の主張がなぜ主張として成り立つかを示す根拠なり証拠なりを提示している


p.55
英文添削にあたり注意したこと
1)パラグラフに含まれる主張がひとつであること
2)その主張はかならず複数の根拠からなっていること
3)根拠から主張が無理なく導かれていること
4)それらがパラグラフの規則にしたがっているかどうか


p.63-64

議論の評価をする必要がある場合に、その議論をある「基準」または「ルール」に照らして評価できるということです。基準があるからこそ、他者の議論だけでなく、自分の議論に対しても評価ができるのです。「あなたの考え方は誤っている」とか「あなたの論証には問題がある」と誰かに指摘された場合でも、それに対してむやみやたらに反発するのではなく、その指摘の正当性を「ある基準またはルール」に照らし合わせることで承認できるようになるというわけです。


p.79
トゥールミンの議論モデル
参考:http://homepage3.nifty.com/sugiuramasa/toulmin.htm

□主張(claim)
・言いたいこと
□根拠
・主張を正当化するためのもの
・根拠から主張を導く行為を「論証」と言う
□論拠(Warrant)
・隠れた根拠(根拠の一部だが、表立って言われていない
・この論拠が共有されて始めて議論は成立する

議論の不確かさに注意するために、さらに3つの要素を使う
1)裏づけ(Backing)
・議論をする際の論拠については、それを支持する裏づけを明記する
2)限定語(Qualifier)
・論拠の確かさの程度を示すために限定後を使う。「おそらく」など
3)反証(Rebuttal)
・考えられる反証を最初に盛り込んでおく。「○○でない限りは」など


p.80

「根拠」を出すことは「あなたの主張には何(what)か具体的な証拠はありますか?」という質問に対する答えを出すことと同じです。
また、根拠を単独で提示してもそれがなぜ主張にかんれんするのかはっきりしていませんでした。そこで、根拠と主張を結合させる「論拠(理由づけ)」がさらに必要でした。「論拠」を出すことは「あなたが提示した根拠がどうして(how)あなたの主張と関連づけられるのですか?」という質問に対して答えることと同じです。


p.86
香西秀信教授(宇都宮大学教育学部教授)『論争と詭弁』」

根拠や理由が正しいかどうかの判断は、それと関連する結論や主張の正しさを認めることより容易でなくてはならず、根拠や理由は結論、主張以上に議論の余地があってはいけない


p.92
野矢茂樹東京大学教養学部助教授)『論理トレーニング』

前提から結論へのジャンプの幅があまりに小さいと、その論証は生産力を失う。他方、そのジャンプの幅があまりに大きいと、論証は説得力を失う。そのバランスをとりながら、小さなジャンプを積み重ねて距離をかせがなくてはならない。それが、論証である。


p.122
パラグラフ構造
1)ひとつのパラグラフにはひとつの主張または結論しか書いてはいけない。すなわち、ふたつの主張がある場合には2つのパラグラフに分けて書く必要がある
2)主張はパラグラフの戦闘にトピックセンテンスとして書く必要がある。
3)トピックセンテンスとして書かれた主張のあとにその主張を支える根拠をサポーティングセンテンスとして書く。これで論証に必要な条件を整える。
4)サポーティングセンテンスに書かれる根拠は文頭に述べたトピックセンテンスの主張と直接に関係すると考えられる根拠のみを述べる。
5)パラグラフの最後にコンクルーディングセンテンスとして同パラグラフで主張したトピックセンテンスの内容を再度書く。


p.170
文章を分析するときのチェックリスト

1)議論における論証の構造をつかむ=主張(結論)、およびそれに関連する根拠を探す。
2)根拠が経験的事実(データ)として提示されているか検討する。
3)可能な範囲で明示されていない根拠(論拠)を推定する。
4)書きかえ案を提示する場合にはパラグラフ構造を書き方の基準とする。
5)根拠を経験的事実として提示するための工夫を提示する。
6)主張はなんらかの反論の形式になっているか検討する。