アリソン・アームストロング/チャールズ・ケースメント『コンピュータに育てられた子どもたち』

コンピュータに育てられた子どもたち―教育現場におけるコンピュータの脅威を探る

コンピュータに育てられた子どもたち―教育現場におけるコンピュータの脅威を探る

  • 作者: アリソンアームストロング,チャールズケースメント,Alison Armstrong,Charles Casement,瀬尾なおみ
  • 出版社/メーカー: 七賢出版
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 単行本
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副題は、「教育現場におけるコンピュータの脅威を探る」でした。原題はもっとセンセーショナルに「the child and the Machine / Why Computers May Put Our Children's Education at Risk」です。

コンピュータ(ICTスキル)と教育を融合するカリキュラムをたくさん作り出している立場の人として、こういう反対論は読んでおかなくてはならないと思う。「そうそう」と思えるところもあるし、「それは言い方次第だろ」と思うところもあるけど。でも、勉強になるよ。とにかく、まだ自分が知らない資料とか学説がまだまだたくさんあるってことなんだ。2000年の本だけど、そんなに古くなっているようには感じない。

以下、メモ。

p.68

ジョンズホプキンズ大学にある学校社会組織センターによる全国調査は、公立学校でコンピュータを扱う教師のうち、模範的とされるのは5%に過ぎないと結論づけている。
この調査から、コンピュータを使った卒業アルバムや新聞の作成をサポートできるような教師は、研修を十分に積んでいて、職場からも地域からもコンピュータ利用について手厚い支援を受けていることがわかった。そのような教師が「普通に」コンピュータを使っている教師と異なる点は、教育学ではなく一般教養科目に造詣が深いということだった。しかし、何より注目すべき点は1クラスの人数で、コンピュータを最大限有効に使っているとされた教師は、平均すると17人編成のクラス--全体平均よりも20%少ない--で指導を行っていた。


p.85

パパートは、コンピュータをドリル演習マシンとして使うことには、一貫して反対してきた。彼は、発見しながら学ぶこと、すなわち、子どもたちがのびのびと自由にLOGOを使い、いろいろなことを試しながら学んでいく手法を推奨する。しかし、そうしたスタイルで学ぶには、試行錯誤が必要で、子どもたちにとってはそれができるだけのプログラミング言語を覚えることが難しい。このやり方で学んでいれば、最終的にはさまざまなコマンドを覚えることになるのだが、それでもパパートがイメージしたような学習ができるほどのプログラミング能力は、身につかないことが多い。当初LOGOに寄せられた確信とは裏腹に、LOGOは設計者が意図したほど単純なものではなく、子どもがマスターするには複雑すぎるのである。


p.106

コンピュータは豊かで活発な学習環境を作るとよく言われるが、子どもを対象にしたソフトウェアの多くは、巧妙に設定された範囲内で(ちょうどテレビの子ども番組のように)嵐のような視覚情報を垂れ流しているに過ぎない。発達理論の専門家たちによれば、現代の子どもは人との会話よりも視覚映像から多くの情報を得ているため、話し言葉を理解したり聞いたことを保持しておくように脳が訓練されていないということである。


p.122

何らかの動機があってこそ学校での成績が上がることは事実であり、非常に多くの人びとがコンピュータは子どもにやる気を起こさせると考えるが、その理由のひとつがコンピュータの持つ「もの珍しさの効果」なのだ。コンピュータ・ゲームに熱中している子どもたちの様子を見れば、多くの親はその情熱で算数や国語、理科の勉強にも取り組むはずだと思うわけである。
しかし、その情熱が勉強にまで及ぶ保証はどこにもない。一年間にわたり6つの学校の計803人の1年生と2年生を対象にした大掛かりな研究で、東京工業大学の研究者たちは、コンピュータの利用が小学生の創造性と意欲を高める効果について試験的に調査した。子どもたちは、コンピュータを使えばコンピュータに対しては前向きになるという、北米での多くの研究とも一致する結果が出た。しかし、コンピュータを利用しても、それによって創造性や向上心が育つことはなかった。子どもたちは創造的な活動に駆り立てるのは、本を読んだり言葉遊びをしたりという経験だということを、この調査は示唆している。


p.134
『Where in the World is Carmen Sandiego?』:
・北米で最もよく売れている教育ソフト
・探偵ゲームのスタイルで地理と歴史を教える。
・このゲームを使って、生徒たちは熱心に参考書で調べ物をするので教師に好まれているという論評もある。


しかし、良心的な教師なら、どこへでも勝手に飛べるようなソフトを使ったりしないだろう。むしろ、ひとつのテーマをさまざまな角度から探り、少しずつわかってきた断片を時間をかけてつなぎ合わせる、といった手法を選ぶはずだ。

カーメンシリーズでは、

プレーヤーはまるでパッケージ・ツアーのように世界中を引っ張り回され、何が起こっていたのか理解する間もなく次の場所へ移動する。


p.141
・読み書き能力の基本は話し言葉であり、子どもが実際に経験する場面で、生身の人間が話す言葉である。
・子どもたちが学校で受ける正式な教育は、いろいろな意味で誕生の瞬間から繰り広げられてきた学習の集大成である。

オンタリオ州教育省『Literacy for Life(生涯を通じての読み書き能力)』内の会話と読み書き能力の関係についての説明:


会話が十分にできる状態にならなければ、心の中で発せられる内面の声を聞くことはできない。人間は、字を読むときに自然とわき上がる内面の声に耳を傾けて、本能的に音声の意味を理解しニュアンスを解釈するのだ。同様に、書くときにも内面の対話が必要で、それによって考えをまとめながら書くことができる


p.318

将来に向けて、テクノロジーを人間に添ったかたちで慎重に利用したいのであれば、まずわれわれ自身が、いつ・どのような形で子どもに対してコンピュータを活用するかを、人間主体に、分別を持って考えなくてはならない。子どもたちには最新技術に対して批判精神を持つことを教え、命ある世界の複雑さを示すことが必要だ。人間らしい価値観は人間によって教えられるのが一番である。コンピュータにその代役はとても務まらない。