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おおたとしまさ『中学受験 名門中学の子どもたちは学校で何を学んでいるのか』

中学受験 名門中学の子どもたちは学校で何を学んでいるのか

中学受験 名門中学の子どもたちは学校で何を学んでいるのか


麻布、海城、巣鴨、筑波大学附属駒場桐朋、浅野、聖光学院豊島岡女子学園甲陽学院東大寺学園西大和学園ラ・サールと、そうそうたるラインナップだな…。ふつう、学校っていうのは自分が行っていたところ、自分の子どもが行くところ、くらいしかわからない。だから、こうしていろいろな学校の授業をレポートしてもらえるのっていいな、と思います。それに、学校の先生方にも、「あの学校はこんなことやってるのかあ」とか「あ、このアイデアいいな」とか、刺激をもらって、授業をブラッシュアップすることができるのではないかな、と思います。
たくさん、いろんな学びがありました。以下、メモ。

p.24 麻布中学校・高等学校「
「高校受験がないので、1点2点を争うような意識はありません。テストのために需要事項を覚えることは必要ですが、暗記はいつでもできる。中1のうちに、それ以上に磨いてほしいのは『書くセンス』と『まとめる力』」と村本先生。

p.26-27 麻布中学校・高等学校「
2010年度「考える葦」の「はしがき」には教員による以下のようなコメントがある。「福島の原発事故はいまだ余談を許さぬ状況にあります。(中略)わが国の政府や事業者の情報公開・伝達には、わが国のひとびとのみならず、世界中からも大きな不信感を持たれてしまっています。残念ながらその一因には、自らの考えを的確に伝達するための訓練が十分に行われてきたとはいえないわが国の教育があるのかもしれません。しかし、我田引水のそしりを恐れずに言えば、麻布にはさまざまな機会をとおして書くことを重視してきた伝統があります。それはひとえに他者にたいして、世界にたいして自らの考えを、説得力を持って正確に伝達してゆく能力が欠かせないと考えるからです」。

p.28-29 麻布中学校・高等学校「
教科書選択の際には、「足し算の指導か、引き算の指導か」が論点になった。
「足し算の指導」とは、有り余る素材を与えておき、「こことここをやっておけば大丈夫」とポイントを指し示す指導法だ。
足し算の指導を追求するのであれば通常の公立中学校と同じ検定教科書を使用するという選択肢もあり得たというが、教員によって履修範囲があまりに変わる可能性があるのはよろしくないとの意見から、どちらかといえば学習量の多い「バードランド」を選択することになった。しかし、滝田先生は「麻布の教育は引き算の指導になってしまってはいけないと思う」と力説する。
「たくさんの課題を与えて、『これがぜんぶできれば大丈夫』という発想で指導すると、生徒は与えられたものをひたすらに消化するだけの受け身の学習姿勢になってしまう。麻布生にはそうなってほしくはない。最低限の材料は与えるが、後は自分に必要なものを自分で考えて手に入れる学習姿勢を身につけてほしい」というのだ。
だから、「バードランド」も隅から隅まで、無理にすべてを授業中にこなそうとはしない。要点を押さえ、あとは生徒のやる気に任せる指導が基本だ。

p.35-37 麻布中学校・高等学校
夏休みの宿題およびユニークな課題:
「仮想旅行記」(「世界」の授業で課される)
中1の夏休みの名物宿題。行ったことのない国や地域へ、あたかも実際に行ったかのような紀行文を書く。

p.108 巣鴨中学校・高等学校
国語では、毎週書き写しの宿題が出る。新聞などから良文を抜き出し、それを一字一句そのまま原稿用紙に書き写すのだ。多様な言葉遣いを身につける狙いとともに、注意深さを養い、テストでの点数の取りこぼしをなくす目的もある。土曜日に出題し、月曜日の朝に提出させる。
「この宿題では完璧を求めます。点や棒が1つ抜けただけでも×にします。採点する教員も一字一句、目を皿にして採点しなければいけないから大変です。とても国語の担当教員だけで全クラスの生徒の採点はできないので、この宿題の採点に関してはクラス担任が担当することになっています」と梅津先生。
漢字に書き写し。あえて基礎的な力に重きを置いているのだ。「国語力に関しては甘さが見られる生徒が多い。私は今年9年ぶりに中1を担当することになったのですが、以前に比べて生徒たちの自主性に任せられなくなったなあという印象がありますね」と梅津先生は証言する。

p.137-138 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
鈴木先生が「よーい、スタート!」と号令をかけると、クラスが徐々に静かになる。5分もすると「できた!」という声が上がる。その生徒は教室の前に出て、黒板を使い、自分の証明を発表する。
友達の証明の方向性が見えてくると、それまでざわついていた教室はシーンと静まりかえる。全員がその証明の美しさに釘づけになっているのがわかる。ところどころで、「おー!」「すげーや、これ」などの感嘆の声が聞こえてくる。そして発表が終わると拍手喝采に包まれる。理解し切れていない生徒のために、教師が補足の説明を書き加える。そこでまた教室はシーンと静まりかえる。「これはかっこいい証明だね!」と教師が褒めると他の生徒たちも「カッコイイ!」と応じる。教室全体が、引いては打ち寄せる波のように脈打つのがわかる。
「どうしても発表したい!」という2人目の生徒の証明はかなりユニークだ。今度は教室全体がざわざわし始め、「なにこれ」「すごすぎる!」「なんかキモいんだけど」「なんでこんなこと思いつくの?」というつぶやきが聞こえてくる。数学の証明問題を審美的感覚で捉え、楽しんでいるのがわかる。

p.138-139 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
方程式を習えば方程式を作らせる課題を出す。剰余類を習えばそれも作問させる。そして生徒に発表させる。それが筑駒の数学のスタイルだ。
「教師は教えるのではなく、コーディネートするだけなのです。かっこいい証明をみんなの前で発表するって、数学のいちばんおいしいところじゃないですか。そこを教師が持っていってしまってはいけませんよね。おいしいところこそ生徒にやらせてあげないと」と鈴木先生は笑う。

p.139-140 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
テストの採点では「部分点をばっちりあげる」と鈴木先生。「証明問題の採点はまるで暗号の解読。正直大変です。でも細かいところまでしっかり見て部分点をたくさんあげます。他人にわからせるマナーを身につけてほしいからです。学年が進むごとに、生徒たちの成長が答案に表れるようになります。自己中心的な答案から、他者の目を意識した答案に変化するのです」

p.143 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
(地理の授業の様子:)
大野先生は新聞記事中にある「那覇空港を拠点にした全日空の貨物路線網」に生徒たちの注目を集める。沖縄から、北京、ソウル、台北、香港、マニラ、バンコクと路線が広がる様子がわかる。そして「これはどこかで見たことがあると思わないか?」と投げかける。「中継貿易!」と声が上がる。琉球王朝が行っていた中継貿易の航路と一致することを発見するのだ。
「一見不利だと思われることでも見方を変えれば有利に変わる」、「歴史の中に現在の世の中との相似形を見出すことができる」など、社会科的な知識を単なる知識で終わらせず、線や面として捉える訓練がなされている。そのような頭の使い方こそを生徒には身につけてほしい。それが大野先生の授業の狙いだ。

p.144-145 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
定期テストは書いて、書いて、書きまくる
(略)
大野先生は中1・中2の地理をもう10年以上も教えている。中1地理では、とにかく自分の言葉でたくさん書くことを大切にしている。「うまくまとめる能力は後で身につければいい」という方針だ。社会科の範疇を超えて、文章力を鍛える訓練だ。「それが筑駒のテストだ」ということを早くつかみ取ってほしいという思いがある。良い答案は全生徒に配布し、手本にする。
コツコツと覚えることも必要ではあるが、それよりもひらめきやクリエイティビティを重んじている。「勉強のための勉強をするのではなく、勉強したことと実社会のつながりに気づいてほしい。たとえば沖縄のことを学んだのであれば沖縄に関連するニュースに対してアンテナを張ってほしい。そういう感覚を身につけることこそ勉強だ」と大野先生はいう。

p.149-150 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
生物スケッチでこだわり抜く力を養う
中1の生物では、生物のスケッチが課題になる。(略)
物事を客観的に捉えて正確に描くことは、どんな学問にも通じる大切なこと。絵のうまい下手とは違う。生物のスケッチで求められるのは、特徴を捉えて、それを他者にわかりやすく表現する能力、そして必要とあれば細部にまでこだわって根気よく仕上げる能力だと濱本先生は説明する。「ほら、これなんてものすごいこだわりが感じられますよね。納得するまでやりたいと思う気持ちが大切です。こだわりを突き通すと、いい加減なことをする自分が許せなくなるはずなんです。そういう境地にたどり着いてほしい」と濱本先生。「ときどき、『これは明らかに手を抜いたな』という提出物もあります。そういうとき、私はこういうんです。『本当にこれでいいのか。これが本当にキミの実力か。それならいいんだ。実力以上のことを求めるつもりはない。でも、手を抜いたのだとしたら、そういう自分を許してしまっているキミが残念だ』と。少々厳しい指導かもしれませんが、それが筑駒の生徒に伝えたい精神です。

p.151-152 筑波大学附属駒場中学校・高等学校「
筑駒の進路指導には4原則がある。
1.自分の進路は自分で決める。
2.自分の受ける学部・大学は自分で決める。
3.大学入試の合否に対しては自分で責任を取る。
4.それができる生徒に、学校は育てる。

p.172-173 桐朋中学校・高等学校「
通常の「国語」の授業でも、オリジナルのプリントが教材となる。主に小説や文学的なエッセイを題材として用いる。題材となる文章はそのときそのときのせいとたちの発達段階に応じて選ぶのが桐朋の国語の特徴だ。
「国語とは思考力を鍛える学問である」と原口大助先生はいう。そして最初に「不親切に授業するよ」と宣言する。
まず、板書もせずに、「まとめてごらん」といって、生徒たちに勝手にまとめさせる。生徒同士でお互いのまとめを見せ合う。当然中身はばらばらだ。友達のまとめと自分のまとめの相違点を注意深く見比べることで、何がどう違うのかが見えてくる。そして自分のまとめを整理し直す。最後に解答をまとめるのだ。

p.183 桐朋中学校・高等学校「
「My English Notebook」というノートを配布し、「なんでもいいのでノートが一杯になるまで英語を練習しなさい」という課題が出される。生徒の自主性を重んじるゆえであろうが、「なんでもいいので」というのがすごい。ただし、同時に配布されるプリントには推奨される学習法が細かく記されている。「1学期に学んだ単語を完全に覚えるまで発音しながら書く」、「生活の中で発見した英語表現を書きとめる(英語狩り)」、「英語の映画を字幕なしで見て、聞き取れた英語を書き出す」など。これらを参考に、しかしこれに縛られず、自分なりの英語学習法を見つけてほしいという思いが込められている。

p.344 東大寺学園中学校・高等学校「
実験に際しては、手順を示したオリジナルのプリントを配布し説明する。顕微鏡をのぞき込みながらの作業が必要な場合は、教師用の顕微鏡を大型モニターに接続し、まず教師が手本を見せる。「20倍に拡大された顕微鏡内の画像をもとに作業を行うのですから非常に繊細な作業が要求されます。でも、手本を見せると生徒たちはすぐに『やりたい!』といって実際にやり出してしまいます。男の子たちは実験が大好き。植物のめしべから胚珠を取り出してみたり、納豆菌が泳ぎ回る姿を見たりして喜んでいます」と丹賀光一先生。