小島寛之『確率的発想法 数学を日常に活かす』

確率的発想法~数学を日常に活かす

確率的発想法~数学を日常に活かす


小島さんの数学関係の本は、算数をうまく組み込んだカリキュラムを作れないかと思って集中的に読むことが多い。いろいろと日常の中で数学ってどんなふうに使えるだろうか、という視点がたくさんあってよかった。
自動車が市民にもたらす被害の見積もり方とかもおもしろいなあ。以下、メモ。

p.228-229
自動車が市民にもたらす被害の見積り方:

1.ホフマン方式
その人がこのまま生きていたら、あるいは健康に生活したら得られるであろう利益を金銭換算した金額
→従来の経済理論における「現在から将来にわたる最適化」

2.宇沢方式
市民にとって、自動車がなかった場合に享受できたであろう市民的自由、文化的生活、それらを現状で回復するために最低限必要な金額
→従来の経済理論とはまったく違う視点。現状の自動車社会を「過誤による選択」であった可能性を排除しない。現状を黙認するのではなく、過誤を前提とし、「そうであったかもしれない世界」を付与し、過去も未来も含めて最適化する考え方。

p.230「
(筆者は、ある市民集会で宇沢が自動車の社会的費用の試算方法についえ回顧するのを直接聞く機会があった)そこで宇沢は、人の死を不可避な前提とし、その人の失われた人生を金銭換算したり、その試算を経済要素だけから算出したりすることに、強い違和感を覚えたと告白しています。宇沢は、考えに考えたあげく、人の死を前提とせず、失われた人生を金銭換算せずに、「市民が失っているものの本質は何なのか」を試算できる方法を模索し、前述した計算にたどりついたのだそうです。筆者はそこに「そうであったかもしれない世界」という確率概念へのアプローチを感じました。」