大橋香奈+大橋裕太郎『フィンランドで見つけた「学びのデザイン」』

フィンランドで見つけた「学びのデザイン」 豊かな人生をかたちにする19の実践

フィンランドで見つけた「学びのデザイン」 豊かな人生をかたちにする19の実践


フィンランドの地域で子どもたちを育てようとする仕組みを、インタビューを重ねて丁寧にレポートしてある本。大満足。地域で協力していく動きが素晴らしいな。科学博物館ヘウレカの方のインタビューの中で出てくる「オープンラーニング」という発想はいいなあ。

フィンランドの学校をはじめ教育機関は、子どもたちに魅力的で刺激的な学びの体験を提供する方法を模索しています。ハンヌさん(ハンヌ・サルミさん:科学博物館ヘウレカの研究開発や展示企画を担当)が提案するのは「オープンラーニング」という考え方です。「学校のような『フォーマル』な学びの場と、学校以外の『インフォーマル』な学びの場はしばしば対立するものとして語られていました。しかし私は、学校と、博物館のように『インフォーマル』とされてきた学びの場は、対立するのではなく、協働するべきだと思います。そうすることで、子どもたちに刺激に満ちた、より開かれた学習環境を提供できると考えています。これが『オープンラーニング』の発想です。(p.63)

地域の中心にある公立学校に、地域で働く人たちの力を注ぎ込んで、フォーマル/インフォーマルを取っ払っていろいろと創り上げていく動きを日本でもやりたいなあ。ジュニアアチーブメントみたいなものもあるけどさ、もっともっといろいろやりたい。カタリバみたいな動きも出てきていて、海士町の取り組みとかも出てきて、いろいろできることは多いんじゃないか、と思っている。
以下、メモ。

p.54
WEBサイト

  • 保育施設向けに開発。フィンランドを代表するプロダクトデザインを題材にしたワークショップの手順や、デザイナーのインタビューが閲覧できる。
  • ミュージアムに訪れることのできない子ども達もワークショップを体験できる。

p.56
デザインミュージアムは、公式WEBサイト、Facebookなどを利用して、情報発信
→デザインの世界をプロに任せるのでなく、社会に開かれたものにしている。

p.58
科学博物館 ヘウレカ

  • 科学、革新、本質にこだわる
  • すべての人に発見する喜びをもたらす
  • 刺激的な学びの体験を提供する


p.63「
フィンランドの学校をはじめ教育機関は、子どもたちに魅力的で刺激的な学びの体験を提供する方法を模索しています。ハンヌさんが提案するのは「オープンラーニング」という考え方です。「学校のような『フォーマル』な学びの場と、学校以外の『インフォーマル』な学びの場はしばしば対立するものとして語られていました。しかし私は、学校と、博物館のように『インフォーマル』とされてきた学びの場は、対立するのではなく、協働するべきだと思います。そうすることで、子どもたちに刺激に満ちた、より開かれた学習環境を提供できると考えています。これが『オープンラーニング』の発想です。
」(ハンヌ・サルミさん:ヘウレカの研究開発や展示企画を担当)

p.84
Library 10を含むヘルシンキ市内の公共図書館が連携して2001年にスタートした

  • 利用者からのあらゆる質問に図書館スタッフが答えるというサービス。
  • サイトでメールアドレスと質問を入力するだけで、2週間以内に答えが戻ってくる。
  • 質問と回答内容は、iGSのWEBサイトで一般公開され、蓄積される。
  • 「ケーキのデコレーションをする道具はどこで変えるの?」みたいなのも。


p.88
「ここは未来の図書館像を探る実験場であり、永遠に未完成です」
http://igs.kirjastot.fi/

p.102-103
欧州委員会の「メディアリテラシー」の定義

  • メディアを利用する力
  • メディアとメディアで提供される内容の、いろいろな側面を理解し批判的に評価する力
  • 多様な文脈でコミュニケーションを創造する力

p.104
フィンランドのメディア教育の目的:
基礎教育(日本の小中学校に該当)

  • 包括的に責任を持って自分自身を表現するとともに、他者のコミュニケーションを解釈する
  • 情報管理スキルを発達させ、収集した情報を比較した上で利用する
  • メディアが伝える情報を批判的に見つめ、内容に関する倫理的/美的価値についてしっかりと考える
  • メッセージを作成し伝える。目的を持ってメディアを利用する
  • 情報を収集/発信する際や、さまざまな対話の状況に応じて、情報機器を活用する

後期中等教育(日本の高校に該当)

  • メッセージを受信し解釈するために必要なスキルを身につける。メディアを批判的に選択すること、メディアの情報を批判的に解釈すること、消費者として必要とされる社会的な知識やスキルを学ぶ
  • 倫理的/美的価値に関連した問題にどのように対応するかを知る。メディアコンテンツ制作、メディア利用、メディア行動における責任について学ぶ
  • よりよいコミュニケーション力、人を動かす力を身につける
  • メディアで発信するための文章を作成できるようになる。より良く伝えるための多様な表現能力を身につける
  • 学習のための手段であると同時に、学習環境としてのメディア利用に精通する
  • 学習のためにメディアを活用するスキルを発達させる。また、情報収集/発信のスキルを改善する
  • メディアの働きに影響を与える社会/経済的な要因について精通する
  • コミュニケーション分野、メディア制作、著作権について知る

p.120-121「
Koulukinoでは、オウティさんのほかに、2人のスタッフが働いています。1人は元学校教員で、もう1人は映画業界で働いていた人です。2人のスタッフが、教育、映画それぞれの視点から、各年齢の子どもに適した映画を選出。その映画を鑑賞する前後での学習に必要な情報をまとめて教材を作成します。スタッフは、フィンランドで配給されている映画のうち、子どもを対象としたものはほとんどすべてに目を通し、映画の選定と教材の開発をしてきました。Koulukinoが、これまでに選出した映画の件数は300を超えます。

高校生向けに選定された映画&映画専用に作成された教材:
映画の内容=遺伝病を患った主人公とその家族の物語り。病気をきっかけに家族が再生される。

映画館での鑑賞後にクラスでディスカッション:

  • 日常生活、家庭や家計を営むことの意味について話しあう。
  • 人生を放浪することと、社会で排他されることの関連性について、話しあう。
  • 登場人物から1人を選び、その人のために、よりよい人生を生きるための手引書を作成する
  • 家庭を営むことと、映画制作の共通点を考える

http://www.koulukino.fi/

p.162
子どもと若者のための建築学校・Arkki創設者/校長 ピヒラ・メスカネンへのインタビュー:
「建築学校」とは、未来の建築家を養成すべく英才教育を施す学校なのでしょうか。
「この学校の目的は、建築家を養成することではありません。子どもたちのひらめきを刺激し、未来のよりよい環境づくりに貢献したいという思いを育てることが目的です。現代を生きる私たちは自然の中だけで生活することは難しく、人の手によって構築された環境の中で生きざるを得ません。私たちを取り囲む環境の質は、生活の質に大きな影響をもたらします。建造物や都市設計が、人びとの生活にどのような意味や影響力を持つのか理解すること。環境に対する責任を自覚すること。これは私たち皆の課題であり、子どもたちには伝えていかなければならないことです。建築教育を通して、子どもたちの環境や空間に対する感度を高めることが、この学校のミッションです」

p.169
「子どもたちの学びは、『遊び』と『注意深く計画された授業』の中で生まれます。遊びは、子どもたちが世界を冒険し自然に学ぶための重要な手段です。遊び心にあふれたアプローチは、子どもたちの生まれながらの想像力と自発性を引き出します。そしてこれが、創造力と空間思考力の発達に貢献すると考えています」とピヒラさんは説明します。

p.177
シチズンシップ教育:
フィンランドの法律は、若者に関連した地域の政策決定に、当事者である若者が参加できるようにしなければならないと定めています。地方自治体が、子どもや若者へのサービスに使う費用は予算全体の3割以上です。若者が自治体によるサービスの開発や改善に参加するチャンスは、豊富にあると言えます。これについて、ラッセさんは次のように説明します。「政策決定に参加することは、シチズンシップスキルを身につけるためにとても重要です。私たちの考えるシチズンシップスキルとは、討論する、人の意見に耳を傾ける、妥協点を見つける、投票するといった総合的な能力のことです。ヘルシンキでのシチズンシップ教育の代表とも言えるのが、市内の学校の設備・修繕予算の使い道を生徒に決定させることです」
毎年、学校の設備・修繕予算決定の時期が近づくと、すべての学校のすべてのクラスで、学校の環境改善に何が必要か、生徒がアイディアを提案・議論し、投票を行います。そして決定した各クラスの案を、クラス代表生徒が学校の全体会議の場で発表します。そこでまた投票が行われ、学校全体としての最終案を決定します。最後のステップは、市長が議長を務める会議です。市内すべての学校代表生徒が集まります。この会議は3日間続き、学校代表生徒がそれぞれの案を発表し、公開議論の中で主張や反論を述べます。そして、市議会の本物の機材を使った投票によって最終承認を行います。生徒はこうして実際にお金の使い道の決定に参加し、市の意思決定のプロセスを学び、シチズンシップスキルを習得します。

p.182
「スクールオペラを実現するには、教科横断的に取り組む必要があります。子どもたちは、歴史の授業で演じる題目の時代背景を学び、国語の授業で演じる人物の気持ちを考察し、美術の時間には小道具を作ります。音楽の時間に歌を、体育ではダンスを練習します。オペラ開催日に向けて自分たちでチケットの販売も行い、マーケティングについても考えます。子どもたちは想像と創造を繰り返し、自国の歴史や文化を『立体的に』学んでいきます」とスクールオペラ活動を担当するウーラ・ラウリオさんは説明します。