本田由紀『教育の職業的意義 若者、学校、社会をつなぐ』

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)


教育についてさまざまな言説があるなかで、最近いちばん話を聞いてみたい、と思っている人、本田由紀さんの本を借りてきて読了。働けない人が多いのは、「最近の若者は…」っていう話じゃないんだ、というのを爆問学問で太田光さんとやりあっているのを見て興味を持った人ですが。
いずれ若者は自分で進路について思い切った選択や決断をしなくてはならず、それを人生の早い段階で取り返しがつく保護された環境の中で「選択の練習」(p.16-17)を積んだ方がいい、というのに激しく同意。日本はやり直しがきかなすぎる。15歳とか18歳とかで人生の選択を上手にやりきれる人なんて少なかろうよ。
以下、メモ。

p.16-17

若者はいつまでも教育の内部に留まっているわけではなく、いずれは外の社会や労働市場に出てゆく。選択をいくら先延ばしにしても、いずれは自分の職業上の進路について、思い切った選択や決断が必要になる。それならば、人生の早い段階--私は高校への進学時点が重要だと考えている--から、学校教育という、ある程度保護された環境の中で、「選択の練習」を積んでもらうことのほうが、よほど有益で「自然」である。(略)
ただし、そのような「選択の練習」が有益なものとなるには、ある制度的な条件が充たされる必要がある。それは、進路の途上や節目節目で「選び直し」が可能になるような仕組みを、学校教育制度の内部や教育と仕事との接点において確保しておくということである。


p.55
図1-15 学校生活を通じてもっと教えて欲しかったこと(複数回答)
(出所:(株)UFJ総研「若年者のキャリア形成に関する実態調査」(2004年厚生労働省委託調査)、構成労働者『平成20年版労働経済の分析』118ページ)
上位から、「職業に必要な専門的知識・技能など」「社会人としてのマナー」「各職業の内容」「職業の選び方」「労働者の権利等、必要な基礎的情報」


p.143-146
図4-2 中学校におけるキャリア教育の全体図(文部科学省「小学校・中学校・高等学校 キャリア教育推進の手引き」)


p.148-149
「キャリア教育」は、その対象たる若者たちになにをもたらしているのか。それを推進する側がもっている意図は、若者において実現されているのか。

Benesse教育研究開発センターが2005年に実施した「平成17年度経済産業省委託調査 進路選択に関する振返り調査--大学生を対象として」内で、大学生が自分の高校時代に進路選択に関してどのような悩みをもっていたかをたずねている。
結果:「自分の適性(向き不向き)がわからないこと」「自分の就きたい職業がわからないこと」「自分の進みたい専門分野がわからないこと」といった、まさに「キャリア教育」が目標とする「勤労観・職業観」および「意思決定能力」「将来設計能力」に関する悩みを抱えていたものが半数前後に達している。


そうした「よきもの」を持たねばならないという要請は、それらを実際に持てるようになることを、なんら保証しはしない。むしろ逆に、手段・方法を欠いた要請のみが突きつけられることは、若者にとっては混乱と困惑を増大させる方向に働きがちである。


p.187
赤ちゃん受け渡しモデル:

  • 職業人としてはきわめて未熟な状態の新規学卒者が、教育機関と企業との間で受渡され、彼らの育成については企業が責任をもつという仕組み。
  • 教育機関が職業能力を若者に手渡し、若者がそれを支えとして自ら労働市場に飛びこんでいく、欧米の「棒高跳びモデル(金子元久による「職業知モード」)とは、対照的な仕組み。


キーワード:ハイパーメリトクラシー