岡崎久彦『どこで日本人の歴史観は歪んだのか』

どこで日本人の歴史観は歪んだのか

どこで日本人の歴史観は歪んだのか


アメリカのウィルソン主義のところに鉛筆で傍線が引っ張ってあって、「ガキだな」とメモが書いてあったのですが、図書館の本=みんなの持ち物に、こんなメモを残すやつの方が、よっぽど…とプリプリしながら読んだ。嫌いなんだよ、公共の概念が分からない人。
著者の岡崎さんは、ちょっとクセのある感じの人、かな。歴史の大事さを大いに語っておられます。そして、戦争後、社会がきちんとして繁栄するのに50年くらいはかかるのだ、と。だから、今からようやく戦後の決算が終わり、新しい時代に入るのだから、若者よしっかりやれ、みたいな。歴史については、興味深く接する人を育てたいなあ、と思う。
以下、メモ。

p.11
徳川時代300年は世界史でも稀な文治社会。
当時の教養は歴史と古典(中国古典世界の哲人、政治家の言行)
歴史を知っていることが知識人の資格であり、明治後も敗戦まで、旧制高校に代表される日本の教育に引き継がれた。


p.12
戦前、中学のときに先輩に言われた言葉:
「文科に進むのか?理科に進むのか?文科に行くのなら、ひまがあれば歴史さえ読んでおけば決してムダにはならないよ」


p.34
安岡正篤「読み物でいちばんおもしろいのは中国では三国志、日本では明治維新の頃の話、どうしてかというと世界で最高の文治社会が後漢の200年と徳川時代の250年だからだ」=登場人物が皆、教養人だから、おもしろい。


p.57-58
「土佐派の裏切り」

  • 最初の帝国議会で、民党が900万円の予算削減を求めるなか、土佐派だけが軍事費を削減すべきではないとし、600万円削減の政府案を支持したこと。
  • 板垣退助は自分が党首である自由党を離脱してまで、国のために軍事予算を守った。


p.89
マッカーサーは初めて幣原喜重郎に会ったときに、「あなたが外務大臣になったときのことを、私も人から聞いている。それがそのまま続いていたらこんなことにはならなかっただろう」と言っている。


p.141
アメリカのウィルソン主義:
「同盟なるものは駄目だ。そんなものは古い。みんなで仲良くする条約を作ればいいんだ」と、ロカルノ条約を作った。同盟の力のバランスではなく、原則を決めて平和を維持しようと思った。しかし、モンロードクトリンがあるアメリカと大英帝国として植民地を持つイギリス以外は、同盟がなくなりばらばらになり、弱肉強食に。


p.212
岡崎久彦『百年の遺産』より
「文科の最盛期というのは、古今東西の歴史で、戦乱の百年後に訪れています。漢の武帝、唐の玄宗の時代、日本の元禄等、皆そうです。どうして百年もかかるのかと不思議に思っていましたが、戦後50年の今の日本を見ればなるほど、そうかもしれないと思います。

日本国民が直接戦乱の惨禍にさらされたのは、第二次大戦の前は戦国時代しかありません。
それが終わる関が原の戦い(1600年)の50年後といえば、由井正雪の乱(1651年)でs。この事件の関係者は皆、関が原戦後生まれですが、まだ戦争の長い影を引きずっています。


p.213-214

戦後50年経って国会でも新聞でも論議されているのは、憲法9条といい、靖国といい、戦争の後遺症がほとんどです。こんなものにいつまでもかかずらわっているかぎり、新しい文化の創造のエネルギーはまだ湧き出して来る時期ではないのでしょう。やっと今社会に出始めた世代、そして、それに続く世代に期待したいと思います。
若い人達にとって正しい態度は「もういつまでもそんなことを言うのはやめようや」ということでしょう。
戦争と占領の清算はわれわれの世代にまかせて、日本と人類の長い歴史の伝統と文化、そして普遍的な人間性の本質だけを直視して、そこから新しいものを思索し創造してくれることを期待します。