東京大学教養学部 編『高校生のための東大授業ライブ』

高校生のための東大授業ライブ

高校生のための東大授業ライブ


図書館のジュニアコーナーからかり出してきた。東京大学教養学部がやっている、高校生のための金曜特別講座の様子を書籍化したもの。非常におもしろいと思った。進路を考えている高校1年〜2年生に受けてもらいたいかも。変に○○学とかを概説するようなのじゃなくて、とにかく先生が自分の研究しているテーマを語りまくる、というのでいいと思うのだよね。その方が届くのじゃないかな。
情報学環安冨歩助教授(2005年当時)が、この本の中で、世の中で何か解決すべきことを見つけたときに、そのために仲間を見つけ、道筋を見つけ、ヒントを集め、成し遂げていくプロセスを、「人生のファンタジー化」と呼んでいます。以下、引用。

若いメンバーの1人が、「これってドラクエじゃないか」と言ったので、私はこれを「人生のファンタジー化」と呼んでいます。人間関係を張り巡らせて、おしゃべりを繰り広げながら、次から次へと接続を変えていく人生はスリリングでわくわくするものです。このファンタジー化の程度が人間の生活の豊かさを決める重要な要素だと思います。(略)
高校生の皆さんに強く申し上げたいのですが、こういったファンタジー化した人生に比べると、ゲーム機のファンタジーは退屈です。ごく普通の高校生があるとき自分のミッションに気づいて、突然とんでもない旅に出る、という設定はファンタジーによくあることですが、それは真実なのです。どの人の人生にもファンタジー化の契機が含まれています。自分自身のファンタジーの起点を見逃さないようにしてください。心の穢れを落とすように注意しましょう。そうすれば、ある日突然、すばらしい旅が始まります。(p.95)

こういうの、非常におもしろいと思う。いい考え方ですね。リアルな人生で、ゲームよりもずっとおもしろいものを見つけちゃう、そんな経験をさせることが教育機関の大切な役割だと思うのです。そのために、ちょっとぶっ飛んじゃっている教授とかが、髪を振り乱して自分の好きなことをしゃべりまくるような、そんな機会が高校生にも開かれているのはいいことだな、と思った。今年の夏学期も開講しています。自分の息子に受けさせたいし、その前に自分で聴講に行こうかな、と思ってます。
以下、メモ。

p.ii
三谷博(東京大学教養学部社会連携委員長・教授)

この本を読めば、大学に入ったら、どんな学問が待っているのか、それを端的に知ることができるでしょう。高校生の諸君は、進路の選択、大学のどんな学部に進むべきか、いろいろと悩み、考えていることと思います。そのとき、単に○○学という言葉に注目しても、何の役にも立ちません。大学の教員が普段どんな問題に関心を持っているのか、その解決のためどのように模索しているのか、その生身の姿を見てくだされば、もっと正確に大学というところが分かると思います。自分が何に興味があるのかを自覚したり、今までまったく知らなかった分野に眼を開かれたりすることでしょう。


p.95
安冨歩(大学院情報学環助教授)

若いメンバーの1人が、「これってドラクエじゃないか」と言ったので、私はこれを「人生のファンタジー化」と呼んでいます。人間関係を張り巡らせて、おしゃべりを繰り広げながら、次から次へと接続を変えていく人生はスリリングでわくわくするものです。このファンタジー化の程度が人間の生活の豊かさを決める重要な要素だと思います。(略)
高校生の皆さんに強く申し上げたいのですが、こういったファンタジー化した人生に比べると、ゲーム機のファンタジーは退屈です。ごく普通の高校生があるとき自分のミッションに気づいて、突然とんでもない旅に出る、という設定はファンタジーによくあることですが、それは真実なのです。どの人の人生にもファンタジー化の契機が含まれています。自分自身のファンタジーの起点を見逃さないようにしてください。心の穢れを落とすように注意しましょう。そうすれば、ある日突然、すばらしい旅が始まります。


p.107
Gordon H. Sato(マンザナー・プロジェクト代表)

高校生の皆さん、私は今、多くの日本の若者が髪の毛を染めていることを不思議に思っています。恐らく、彼らは日本人の黒い髪の毛を日本社会の画一性の象徴であると感じているのでしょう。それに逆らうこととして髪の毛を赤や金髪に染めているのではないかと思います。もしかしたら、髪を染めることで親の世代に反抗しているのかもしれません。しかし、そのような抵抗は生産的ではありません。(略)彼ら(注:親の世代とそれ以前の世代)には日本を工業的に発展させるためという目標がありました。その目標は概ね実現しました。
その中で育った日本の若者たちは、次なる目標を失っているのではないでしょうか?でも、私は日本の若者たちに言いたいと思います。非生産的なことに終始するのではなく、まだまだ、問題は身近にあるのです。あなた方の国は40%しか食料自給力がないのですよ。これを解決しなければなりません。
世界に目を向けると、そこにも大きな問題があります。(略)皆さんには世界のいろいろな状況を知って欲しいと思います。


p.120
臼井隆一郎(大学院総合文化研究科教授)

近代ヨーロッパ社会は原理上、「読書する公衆(public)」から成り立っています。公刊物を媒体にする市民の集合です。(略)
読書と著作を取り結ぶのは印刷・出版業です。国民国家は、国土と呼ばれる領土の津々浦々で、国民と呼ばれる人々が国語と呼ばれる言語で同じようなものを読み、同じようなことを考え、同じようなことに一喜一憂する社会です。その大前提はまず、文字を読む訓練を与え、鉛筆で紙の上に文字を書くことのできる人間を育てる学校教育の充実であり、そのためにはまた、大量の教科書と大量のノートが必要とされます。こうした大量の印刷物を流通させるには、出版資本主義の成立が絶対の前提です。