奥出直人『デザイン思考の道具箱 イノベーションを生む会社のつくり方』

デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方

デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方


以前、「これから子どもたちにどんなスキルを身につけてもらいたいと思いますか?」という質問を保護者様にしたことがあって、そのときにお一人が「広い意味で何かをデザインできる子を育てたいと思います」とおっしゃっていたことがあります。その言葉と並行しているような、これからはデザインのプロセスを可愛いものを作る、というだけでなく、思考の全体にもちこまなくてはならない、という奥出先生の本。
「創造性は個人の才能ではなくて方法だ」=方法さえ身につければ誰でも創造性を発揮できるというのは、教育に携わる者として非常に心強い言葉だと感じる。ノウハウを伝えることで身につけてもらうことができる、ということは希望だと思うから。才能のある人だけができる、っていう領域があることは認めるけど、その前にがんばればできる部分も大きくあるのだ、ということ。もちろん、ノウハウに向き不向きは絶対にあると思うので、たくさん試してみて、だんだん自己流にアレンジしてみて、とにかくやってみるってことが大事なのかな、と思っている。手帳の使い方、ToDoの管理の仕方、アイデア発想法、そういったノウハウを自分に向いたものに出会うまでやってみる、ってことが大事なのかな、と。
その意味で、この本に出てきたデザイン思考のためのプロセスとプラクティスについても、意識してやってみようと考えています。
以下、メモ。

p.12

かつてはエンジニアリングや技術や品質が競争力の中心であった。しかしデザイン主導のイノベーションを全面に押し出して競争力のある商品やサービスを開発するためにもっとも必要な能力は、人びとの行動を観察する学問である民族学あるいは文化人類学であり、創造性である。消費者が真に求めているものを提供できた企業のみが生き残っていくことができるのである。


この問題は「Get Creative!」(『ビジネスウィーク』2005/8/1号)
経済の基本が知識から創造性へと移行してきたと報道されている


p.13

IDEOの名前は2006年の1月のダボス会議でも大きく扱われた。緊急の課題を取り上げて多くの経済人が集まり意見を戦わせるダボス会議であるが、ここで中国やインドの経済とどのように向き合っていくかという議論に加えて、イノベーションと創造性が大きなテーマとなっていた。先進国は生産性や技術力では中国やインドと競争できなくなっていている。さらなる競争力のためには創造性が大切だ、というのである。


p.19

デザインという行為は、自分が普通に暮らしている日常世界を他者の目で眺めるところから始めて、何か新しいアイデアを思いついたら、それを表現する構成を考えて、さらに最終的なスタイルを決定するという作業のことである。デザイナーはこのプロセスの専門家であると言っていいが、その根底にある考え方は多分にプロセスと分かちがたいものとなっている。つまり、これが「デザイン思考」であり、それは会社の経営にも役立てることができる。IDEOの社長兼CEOであるティム・ブラウンは、2006年のダボス会議で、デザインとは「クールで可愛いものをつくる以上の行為である。企業の未来をつくりだす活動にデザイン思考をかつようすることができるのである」と述べている。


p.41
デザインプロセス:
・消費者を観察することでアイデアを見つけ、
・それを実行できるコンセプトをつくり、
・形を考え、メカニズムを考案して設計し、実装し、
・消費者に渡すまでの製品やサービスづくりの流れ

デザイン戦略:
・デザインプロセスを経営戦略として立案すること
・経営、精算システム、あるいはサービスのあり方すべてにデザイン思考を適用していくこと


p.50
伝統的なデザイン教育:
・ほとんどが視覚的表現に基づいている
・絵を描いたり、モデルをつくったり、ほかのデザイナーがつくったものを見たりすることで学ぶ
・このような方法で学んだデザインをビジネスの世界と結びつけるのは容易ではない

パトリック・ホイットニー(IITインスティテュート・オブ・デザイン、IITID)
・従来のデザイン学校のように物理的に製品やサービスをつくるということはしない。
・デザイン思考を用いて物事を見るという方法を教えている。
・学生は、IITIDではユーザーを観察する方法、ユーザーのニーズやイノベーションの問題点を理解するために早い時期にモデルをつくって考えるという方法、新しいプロダクトをつくる際のバランスシートを読む方法、効果的なビジネスプレゼンテーションの方法などを学ぶ。


p.67

  • インタンジブル・プロダクトにおいても、いくつものタンジルブルなしくみを組み合わせた方が、顧客は安心を感じて購入する。
  • 見えないところで計算をして見積もりをぱっと出していくよりも、しっかりと計測し、記録を出し、ヒアリングをし、書類に書き込み、後日見積もりを出してくる方が、評価は高くなる。


顧客との関係をマネジメントするためにもサービスがタンジブル化していることは大切だ。顧客が購入したサービスがうまく機能しないときにはすかさずその修復がおこなわれることを保証し、またサービスが順調に提供されているときはそのことを顧客に意識させなくてはならない。


p.69

iPodは、ハードウェアとソフトウェアだけでなく、コンテンツの流通までひとつのiPodというパッケージの中に、押し込んでいるということだ。iPodは「圧縮された音楽を格納・再生する小型ハードディスク内蔵メディア」をデザインしただけではない。聴きたい音楽を聴きたいだけ聴けるようなしくみがあって、それに最適化したインターフェイスをつけたことで、人の経験そのものを満足させるものをでざいんしたのだ。
iPodを手にした人の生活がどのように変わるのか、そして、皆がiPodを持つようになると、社会がどのように変化するかまでデザインされている。現実に、iPOdが浸透し、iTMSでネットワークを介して音楽や映像を気軽に購入する時代・社会が訪れた。


p.73
創造性は個人の才能ではなくて方法だ
=方法さえ身につければ誰でも創造性を発揮できる


p.76
創造の方法=創造のプロセスの設計
1.社会的背景や哲学的背景を踏まえた上でのモノづくりへの考え方、つくり手の問題意識を表す哲学を考える
2.具体的に何をつくりたいかビジョンを決める
3.それをもってフィールドワークに行く
4.どんなものをつくるかコンセプト/モデルをつくる
5.昨日やインタラクションを検討しながら実際の設計デザインをおこない、実証する
6.ビジネスモデルを構築する
7.実際の運営方法を決定する


p.76
宮田秀明(『プロジェクトマネジメントで克つ』)
従来型のR&D(Research & Development)

R&D&D&D(Research & Development & Demonstration & Dissemination)
=研究して、開発して、実証して、普及させるという一連の流れ


p.84
創造のプロセス:

<プロセスの上流>
1.哲学→ビジョン
2.技術の棚卸し→フィールドワーク
3.コンセプト→モデル
4.デザイン

<プロセスの下流>
5.実証
6.ビジネスモデル
7.オペレーション(1.へ戻る)


ビジョンとコンセプトを徹底して区別する点が重要。コンセプトとは、ビジョンを可能にするために具体的な技術を組み入れて検討した解決策のこと(p.96)


p.111
「創造の方法」を実行するために必要な身体能力=プラクティス
1.経験の拡大
  →実際に現場に行って物事を感じる力
2.プロトタイプ思考(build to think)
  →実際に簡単につくってみながら考える力
3.コラボレーション能力
  →チームで動く力