松田良一編著『世界の科学教育 国際比較からみた日本の理科教育』

世界の科学教育

世界の科学教育


イングランドのナショナル・カリキュラム(wikipedia)なども踏まえて、日本の科学教育についての総ざらい。個人的には、科学教育に対して何かできることがあるだろうか?と考えたことはあまりなかった*1が、科学の中の考え方や証拠主義、仮説と検証のプロセスなどは、いちばんベーシックなところの教育として取り入れてもいいのではないか、と思っている。そのこともあって、非常に勉強になりました。
以下、メモ。

p.16-19
イギリスのナショナル・カリキュラムでの最後の2年間に相当するKey Stage4での「科学的探求」の内容
・科学での考え方と証拠
1.生徒たちは以下の事項を教えられるべきである
a.いかに科学的な考え方が発表され、評価され、広まっていくか(例えば、出版物や他の科学者のレビューによって)。
b.経験的な証拠を異なって解釈することから、いかに科学的な論争が巻き起こるか(例えば、ダーウィンの進化論)。
c.科学的な仕事が、それがなされる状況から影響を受ける様(例えば、社会的、歴史的、倫理的、精神的)と、そうした状況が考え方を受けれるか否かにいかに影響を与えるか。
d.産業的、社会的、及び環境的な問題に取り組む際の科学の力と限界について考察すること。それは、科学が答えられることと答えられないこと、科学的な知識の不確かさ、及び、関連する審美的な諸問題も含む。

・調査能力
2.生徒たちは以下の事項を教えられるべきである
「計画すること」
a.科学的な知識と理解を用いて、さまざまな考えを調査できる形式に変換し、適切な方略を計画すること。
b.直接経験に基づく証拠を用いるか、あるいは二次的な情報源からの証拠を用いるかを決定すること。
c.適切な場面で、予備的な作業を行って、予測を立てること。
d.証拠を収集する際、考慮すべき主要な要因について検討し、また、容易に変数がコントロールできないような状況で(例えば、野外作業や調査など)いかに証拠を収集できるかを検討すること。
e.収集しようとするデータの範囲と程度(例えば、生物調査の際の適切な標本の量)、技法、装置、及び用いる材料を決定すること。

「証拠を得ることと提示すること」
f.幅広い装置や材料を持ち手、かつ、自身や他人の安全を確保する作業環境を保つこと。
g.データ収集に当たって、ICTを使用することを含んだ観察や測定を行うこと。
h.誤差を低減したり、信頼性の高い証拠を得たりするために十分な観察や測定を行うこと。
i.観察や測定における不確かさの程度を判断すること(例えば、繰り返し測定における分散を用いて、測定値の平均値の正確さの程度を判断すること)。
j.ダイアグラムや表、チャート、グラフ、及びICTを用いて、量的データや質的データを表現したり、他人に伝えたりすること。

「証拠を考察すること」
k.ダイアグラムや表、チャート、グラフを用いて、データにおけるパターンや関連性を見つけたり説明したりすること。
l.計算の結果を適切な程度の正確さで表現すること。
m.観察や測定、その他のデータを用いて、結論を導くこと。
n.こうした結論がどの範囲において予測を支持するか、及び、さらなる予測を可能とするか、について説明すること。
o.科学的な知識と理解を用いて、観察や測定、その他のデータ、及び結論を説明したり解釈したりすること。

「評価すること」
p.不規則なデータについて、それらを却下、もしくは採用するための理由について検討するとともに、測定と観察にともなう不確かさに関して、データの信頼性を検討すること。
q.収集した証拠がいかなる結論やなされる解釈を十分に支持するかどうかについて検討すること。
r.用いた方法に対する改善点を示唆すること。
s.さらなる調査について示唆すること。


p.70-71
『成功のための公式:学生の数学、理科の成績向上を支援する財界指導者のためのガイド』(教育改革のためのビジネス連合)

ペンシルバニア大学での最近の研究によると、労働者の教育水準を10%(約1学年分)引き上げると、生産性が8.6%上昇することがわかった。一方で、それに相当する設備投資を行ったとしても生産性は3.4%しか増加しない。非製造企業においては教育水準引き上げによる生産性の伸び率は大きく、11%にも達した。新しい研究では数学、理科の成績が向上することにより収入が大幅に上昇すると報告されている。


p.71
アメリカ産業界の教育改革への支援:
・われわれは、教育改革は短距離走ではなくマラソンのようなものだと思っている(リチャード・W・ヴェイグ ファーストUSA銀行会長)
・世界市場で競争力を付けたいのなら、教室と工場の両方において競争力がなければならない。(アルバート・ホーサー シーメンス・コーポレーション社社長兼CEO)


p.122

モチベーションの弱い入学者に対して、大学は、どんなことをしてもモチベーションをあげる工夫が必要になっている。たとえば初年次教育で単なる高校化学や高校生物の復習ではなく、学部学科なりの「本物の知」と結びついたリメディアル化学やリメディアル生物のカリキュラムが求められよう。


p.184
古川和(GEMSジャパン・Great Explorations in Math and Science):
例えばエジソンの話なども、GEMSの教科書の中では非常に面白くて、エジソンのメモのノートが出ていて、これはいったい誰が書いたものかということを、小学生に見せるわけです。その中で、エジソンが試行錯誤をして、ついに電球を発明するという過程が出てくるんですね。書かれている文字や中身は分からないんですが、エジソンだってこんなに失敗しながら発明をしたんだよということを、クイズのようにやっていく。それが本当に科学が文化の中に根付くということにつながるのだろうと思いました。

*1:これは、自分が理数系がてんでダメだったというバックグラウンドが大きい。