ポール・ポースト『戦争の経済学』

戦争の経済学

戦争の経済学


経済学の教科書として使えるように、というコンセプトで書かれている本なので、マクロ経済とミクロ経済の基本的な用語をレビューしている。その題材に戦争を使っている、というもの。アメリカの軍産複合体の話や、不景気になると戦争をして戦争特需が起こるのか、という話などケーススタディとして非常におもしろいと感じた。
貧困や資源採掘などの経済状況が紛争の真の原因である、というのはよく言われること。でも、そこに機会費用や教育がどのように関係してくるか、というのをしっかり数字で出してきているのは初めて僕は読んだ。なるほど、こういうアプローチもあるのか。例えば、

機会費用(ある行動をとるためにその人があきらめる次善の行動)もまた、貧困と紛争の相関を説明できる。例として、その国の男性の教育水準を考えよう。男性の通学年数は、武力紛争といった高リスク行動に従事する男の機会費用をはかる指標となる。男性の教育水準が高いほど、その人は武力紛争に従事しにくくなる。だから男の教育水準がちょっと上がるだけで、紛争リスクは下がる。
教育と関連して、雇用機会という機会費用もある。政府軍はゆっくりとまとまりを作ればよいけれど、反乱軍は一気にまとめあげなくてはならない。結果として、急成長が必要な反乱組織は労働市場の状態に敏感になる。仕事がたくさんあれば、反乱組織は十分な人材を手早く確保できなくなるから、反乱も起きにくくなる。(p.269)

僕は、教育は、(1)「戦争をしない」という意識づけ、(2)「戦争以外に選択肢があるはずだ」と模索するメンタリティの醸成に有効だと思って今の仕事を選んだのだけど、それ以外に教育水準を高めることによって武力紛争に別の側面から関わることもできるのだなぁ、と。
以下、メモ。

p.267

低開発国の紛争なんて、民族対立や宗派争いがきっかけの不合理な行動でしかないと思ってしまうかもしれない。でも実際には、民族や宗派対立といった要因は、紛争の真の原因である経済状況を上塗りしているだけだ。本当の原因は、貧困、資源採掘、強欲、少数民族からのリソース搾取、格差などだ。


p.268

所得水準別に、内戦の発生確率を調べた研究がいくつかある。1人あたりGDPが250ドルの国は、今後5年間で戦争が起きる確率が15%だ。1人あたりGDPが600ドルになると、その確率は半減する。1250ドルまで上がると、さらに半減----4%以下になる。5000ドルを超えたら、他の条件が同じなら内戦になる確率は1%以下だ。だから、世界の内戦の8割が、一番貧しい1/6の国で起きているのも不思議ではない*1


p.269

機会費用(ある行動をとるためにその人があきらめる次善の行動)もまた、貧困と紛争の相関を説明できる。例として、その国の男性の教育水準を考えよう。男性の通学年数は、武力紛争といった高リスク行動に従事する男の機会費用をはかる指標となる。男性の教育水準が高いほど、その人は武力紛争に従事しにくくなる。だから男の教育水準がちょっと上がるだけで、紛争リスクは下がる。
教育と関連して、雇用機会という機会費用もある。政府軍はゆっくりとまとまりを作ればよいけれど、反乱軍は一気にまとめあげなくてはならない。結果として、急成長が必要な反乱組織は労働市場の状態に敏感になる。仕事がたくさんあれば、反乱組織は十分な人材を手早く確保できなくなるから、反乱も起きにくくなる。

*1:"The Global Menace of Local Strife." The Economist. May 24, 2003, p.24, 特集記事