寺脇研『それでも、ゆとり教育は間違っていない』

それでも、ゆとり教育は間違っていない

それでも、ゆとり教育は間違っていない


「ゆとり教育」が失敗!と断言されて、「ゆとりちゃんたちが新入社員としてはいってくるよー」などと言われたりする最近。そのゆとり教育の旗手だった寺脇さんのガリレオ的なタイトルの本。「ゆとり教育」っていうのは別に文部科学省が言った言葉ではなくて、メディアが言った言葉なんだってね。
「ゆとり教育」って、結局のところはそれを運用する先生たち次第なような気がする。考え方は間違っていないと思うんだよね。教科で得た知識を活用する場を作って、科目横断的に学びのチャンスを学校の授業内で用意する、っていうのは。ただ、それをしっかり準備して運用するためには先生たちのスキルと努力と時間が必要で、そこをもう少し考えてあげられれば、まだ可能性はあるのかな、と僕は思っています。これまでの自分の科目の授業研究だけで大変だったのを、何とか改めること。それから民間のプログラムなどをもっと導入すること、というのである程度改善できると思うのですけどね。
それから、教育はフィードバックに時間がかかる。学んだ生徒達がどんなふうになるかは10年後とか20年後。となれば、今回のゆとり教育からの方針転換は早すぎたのかもな、と思います。

学力低下とは逆に、07年4月に文部科学省が発表した「教育課程実施状況調査」によれば、98年以降の指導要領で学んだ高校生は、それ以前の指導要領で学んだ高校生よりも正答率が高く、学習意欲についても「勉強は大切」と答えた生徒の割合が増加しているという(p.28)

ただ、文部科学省も認めているように、「ゆとり教育」のビジョンを現場にまで徹底できなかったことは1つの失敗の要因だろうな。ビジョンの共有が大事なのは、教育みたいな結果がすぐに出ないことの方なのだと思った。
寺脇さんは、民間にやってきて自由になったと思う。もちろん、官でなしとげられなかったことも大きいだろうから悔しさもあるだろうけど、これからまだやれることをたくさんやってほしいな、と思います。教育の仕事をしている以上、僕もいつか一緒にお仕事できたら幸せだと思っている人の一人。
以下、メモ。

p.24

PISAのほうは「生きる力」「考える力」を問う調査で、出題形式もまったく異なります。2003年に日本の子どもの読解力が世界第14位になったことが学力低下論争の焦点になりましたが、PISAの読解力は国語を読み解く力ではありません。2003年に行なわれたPISAでは、読解力を「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」と定義しています。
だから読解力が下がったといっても、PISAで言うのは漢字や言葉をたくさん知っているなどという意味の読解力ではなく、つまりはコミュニケーション能力などの生きる力を指しているわけです。


p.28

学力低下とは逆に、07年4月に文部科学省が発表した「教育課程実施状況調査」によれば、98年以降の指導要領で学んだ高校生は、それ以前の指導要領で学んだ高校生よりも正答率が高く、学習意欲についても「勉強は大切」と答えた生徒の割合が増加しているという


p.39

受験学力が将来の幸福に直結すると考える若者の存在は、今の日本社会を営む大人に鋭い問いを突きつけています。私たち大人は若い世代を前に、これからの時代の“幸せな人生の形”を描き出せているのでしょうか?


p.74#
大手進学塾四谷大塚などの試算:
07年春に首都圏(東京、千葉、埼玉、金川)で私立中学校を受験した小学校6年生は約52,000人=6人に1人の割合。子どもの数が減っているのに、中学受験者数はこの5年間で増加し続けていて、20年前に比べて割合はほぼ倍増。


p.75

子どもが親のおもちゃにされているんですよ。各企業で今春の採用を総括する場があったのですが、「就職に際して誰の意見を一番聞いたか?」という点は、圧倒的に親が35%と高いんですよ。その次は「誰の話も聞かない」というのが30%くらいで、あとは全部10%未満。親の影響力にはすさまじいものを感じました。


p.116
天野秀昭さん(世田谷ボランティア協会)

あと、僕がよく言うのは、学校で教えるのは「善と悪」みたいな価値の世界で、遊び場で子どもが培うのは情動の世界--つまり快か不快か。子どもの基本的な行動原理はこの「快か不快か」というところなんですよ。今の多くの子どもたちは、そうした体験をさせてもらえないから人の痛みにも鈍感になっているんです。異質な集まりの中でこそ人間関係は葛藤し、だから自分と相手とは違うのだということを実感して、人との距離感を掴んでいくのです。


p.120
天野秀昭さん(世田谷ボランティア協会)

でも、親たちは「プレーパークに行くようになってから言うことを聞かなくなった」って言うんですね(笑)。だけど、そうは言いながらも多くの親は喜んでますよ。子どもの表情が変わってくるし、親に対していろいろ話すようになる。自分の気持ちが開かれているからだよね。


p.125
公立学校選択制:
04年の文部科学省の調査によると、区域内に2つ以上の小学校を持つ自治体のうち8.8%にあたる227自治体が、2つ以上の中学校を持つ自治体のうち11.1%にあたる161自治体が、なんらかの形で選択制を導入している


p.225
高木幹夫さん(日能研代表)

現実には高等教育がこれだけの進学率になっていて、普通教育という程度では満足しない人が増えた。普通教育だった部分に、もっともっと高い力をみんなが要求しているけれど、それが高等教育に繋がっているかというと、繋がっていない。将来高等教育で学ぶことを前提にしているかどうかで、学びのイメージが全然変わるんですよ。