岩瀬大輔『ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて』

ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて

ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて


僕は留学の経験もない。したいと思っていた時期はわずかながらあるけど。やっぱり、アメリカの高等教育ってすごいよなあ、と思う。本当によくデザインされている。そうした教育手法の研究にとてもよかったです。以下、メモ。

p.25
ハーバードビジネススクール「リーダーシップと組織行動論」でのケースメソッド:

その日の講義が終わると、教材配布ボックスに、次の日のケースが配布されている。続編だ。話は本社から社長が来るところから始まる。話は進んでいく。そして、3分目の教材をあけると、解雇される話が明らかになる。自分は本人になり切っているので、そのニュースは大きなショックだ。さらに、もう1部の教材で、一連のストーリーが社長からの視点で書かれている。本人が認識していた状況と、まったく違う見方をしていたことに初めて気がつく。

なんとおもしろい仕掛けだろう。最後の「社長からの視点」っていうのが肝ですね。


p.95
ネットフリックス創業者の1人 ジム・クック氏の立ち上げ時に工夫した5つのポイント:

1.起業時に「それは無理だ」という反対の声に押されてはいけない。
1つひとつの問題点を自分が信じる方向に向かっていかに解決していくか、そんな「クリエイティブな頑固さ」が必要。

2.顧客をあっと言わせるような体験を用意しなければならない。
ネットフリックスのDVDを郵送し、返信してもらうための赤い正方形の封筒は、1998年以来150種類も作られている。郵便局の内部に従業員として入りこんで何百時間も過ごし、オペレーションを理解した。徹底した作りこみ。

3.できるだけシンプルなソリューションを準備すること。
本当に成功している商品は実に単純であることが多い。

4.ベストプラクティスを真似ること。
すでにいいものがあるならば、それを徹底してコピーすればよい。

5.アーリーアダプター、つまり商品導入直後から熱狂的に使ってくれるユーザーにフォーカスすること。そこから口コミで新規ユーザーが広がっていく。


こうやって創業時の苦労話を聞くと、いかに立ち上げ時には多くの困難が伴っていたかということともに、彼らが成功しているのは偶然ではなく、顧客に最高の体験をさせるべく、サービスを細かく作り込んでいるいるからだということが分かる。ベンチャーが当たるか否かは、アイデア勝負ではなく、1つのビジョンをどれだけきめ細やかに実践していけるか、そういう正当な事業構想力と実行力にかかっているのだ。そして、そのようにして成長したベンチャーが、多くの人の日常生活の隅々まで行き渡っているのが、アメリカ流のアントレプレナーシップなのである。


p.284

アメリカではよく使われるが、日本語にぴったりの訳がないものとして、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がある。「仕事と家庭の両立」と訳してしまうと、子どもを持つキャリアウーマンが抱える悩みを指しているようなニュアンスを感じるが、それとはちょっと違う。
いかにしてプロフェッショナルな生活を充実させつつ、豊かな「私」の生活を実現させるか。こちらでは、過程を大切にできていない、あるいはプライベートの生活がないような人は、どれだけ仕事で成功していても尊敬されず、むしろある種の哀れみの目で見られることになる。


p.293

HBSはtransformational experienceであると、しきりに学校から言われるが、僕は本当にここに来て、世界観が変わったし、人生が変わったと感じている。


p.310
eBay CEO Meg Whitmanの講演
HBSの学生に向けて送ったキャリア上のアドバイス:


1. Do something you enjoy.
職場は朝から晩までいるところなのだから、本当に楽しいと思える仕事を選びなさい。

2. Deliver results.
仕事が与えられたら、その大小や自分の役割にかかわらず、とにかく必死に行って結果を出しなさい。そこからチャンスが次々と広がっていくはず。

3. Note down your learnings.
私は7社を渡り歩いたけれど、月に1回は自分の仕事を振り返り、学んだことをノートに書き留めることにした。皆さんもそうされたし。

4. Be patient --- career is a marathon, not a sprint.
昇進などを焦らないこと。私がHBSにいたときはとにかく最年少で出世しなければ、とのプレッシャーにかられていたけれど、キャリアは短距離走ではない。マラソンなのだから、じっくり駆け抜けて。

5. Build a great team, and share credit with them.
自分1人でできることはたかが知れている。周りを優秀な人たちで固めて、成功を彼らと分かち合うようにすることが大切。

6. Be fun to work with.
一緒に仕事をしていて、楽しい人であることを心がけよう。

7. Don't be afraid to ask questions.
わからないことは、ひたすら質問すること。

8. Don't take yourself too seriously.
うまくいってないときは、思いこまずに軽く流すようにする。

9. Don't compromise your integrity.
自分の価値観、倫理観に反するような行動を要求されたときは、その職場は辞めどきと考えるべき。

10. Don't drink your own bath water.
自分の成功に浸り過ぎない。過信せずに、成功できたのは環境のおかげ、周りの人たちのおかげ、運のおかげと考え、絶えず自分に何が足りないかを振り返ること。

p.322

「これからの2年間は、あなた方を根本から変革する体験(transformational experience)となるでしょう」。
2004年8月、予想外に強い陽射しがじりじりと肌に刺さる夏のボストンにて行われた入学式で、もっとも印象的に残ったフレーズだ。