飯田亮『経営の実際』

経営の実際―8つの重要なポイント

経営の実際―8つの重要なポイント


飯田さんの本。うちの会社にも、この遺伝子を担っている人がいるわけですが、それを僕らが受け継いでいけていないなあ、と痛感。

考えに考えた末の結論か、途中で思考を打ち切ったそれかは、見る人が見ればすぐにわかります。

というのは強烈なメッセージ。「あと5分、考え抜け」って。わかる!でも、ルーティンに入っちゃうとこれが難しくてついさぼってしまいがち。それがいけないんだ。書かれていることは、非常にプラクティカル。以下、メモ。

p.20

未知のビジネスのデザインというのは、誰かに相談できるものではありません。とにかく、自分で考えぬくしかありません。集中力とか執着心みたいなもので、脳ミソを絞りに絞って、暗ぁく、じとーっと考えるだけです。なかには社会的な規制があって壁にぶつかり、こんなことを一生懸命考えるなんて、俺は何てバカなんだと思うこともあります。投げ出したくなることもたびたびでした。
しかし、できないから他の人がやっていないのであり、そう簡単に答えが出てくるわけがないじゃないか。そう思い直して、また考えるわけです。何時間も何日もです。非常に苦しい。そして「ああ、やはり俺はドン・キホーテなんだな」と思ったときに、閃きのようなものが出てくるのです。自分を追い込めば追い込むほど、いろいろな知恵が出てくる。「あ、できるな」という手応えを感じたときが、いちばんの喜びです。
私が事業を起こすときの判断基準は、社会的に正しいものか、社会が本当に求めているものか、他の人よりも自分がやったほうが適切なものができるかどうかというものです。極めて簡単明瞭です。


p.22

真似をされるということは、マーケットが広がる意味で、私は歓迎です。しかし、真似は真似です。システムをつくり上げた発想まで真似することはできません。ビジネスの、システムの根っこが理解できなければ、永久に品質で追いつくことはできないのです。
(略)
経営者とは、逃げ場のない職種です。もともと、弁護士とか医者のように免許資格が必要のない職種です。エンジニアなら生産現場に戻ればいいかと思うかもしれないが、専門がないゼネラリストである多くの経営者に逃げ場はありません。だったらそれを受け入れて、オーケストラのコンダクターのように、自分の思った通りの経営を行なうことです。


p.31-33
「セコムの事業と運営の憲法」(社内では「セコム憲法」と呼ばれている)
・セコムの提供する社会サービスシステムは、人々の安心のための、よりよき社会のためのサービスシステムである。この基本から外れる事業は行なってはならない。そして実施する事業が、かかる目的に合致するものであっても、派生的に社会に有害なものの発生が予測されるものは行なってはならない。
・他のいかなる組織が実施するよりも、セコムが事業化し実施することが最適であるとの判断が重要だ。他の組織が最適な場合は、他の組織で実施するほうが社会にとって有益であるからだ。
・選択した事業の実行にあたっては、自ら完全に納得できるものとして事業を行なうべきであり、妥協は徹底して排除しなければならない。
・額に汗し、努力の結果以外の利益は受けない。
・すべてのことに関して、セコムの判断の尺度は「社会にとって正しいかどうか」と「公正であるかどうか」である。
・セコムは、常に革新的であり続ける。そのため否定の精神、現状打破の精神を持ち続け絶やさない。
・セコムはすべてに関して礼節を重んずる。
・セコムの社員は、いかなることに関しても、自らの立場、職責を利用した言動をしてはならない。


p.80

「値決め」、値段を決められるというのは、新しい産業を生み出す者の特権です。二番手以下は、先駆者が決めた値段に従うしかありません。最初の値決めには、パイオニアの経営思想、事業哲学、いうならば企業フィロソフィーが象徴的に表現されるのだと思います。社会的に意義があり、有益な事業を目指した以上、不公平のないように、全国一物一価でなければなりません。
むろん、自分たちだけが利益を得るような値決めであってもいけない。お客様が納得できる合理的な料金でなければなりません。そうでなければ、どんなに立派な商品・サービスでも、社会に広く普及することなどあり得ませんね。


p.123-126
企業が混乱に慣れ、立ち向かっていくためには何をしたらいいのか?
1.どうせ混乱するなら、混乱させられる側に立つのではなくて、混乱させる側に立つ。そういう気持ちを持つことです。混乱させる側に回れなくとも、混乱を上から冷静に見ていよう。
2.スピードは速くなければいけません。できうれば、時代よりちょっと速いのがいい。
3.過去のものを切り捨てること。過去のやり方、過去に蓄積してきた資産を捨てる。


p.131

組織が本当に十分な速度を持つためには、組織の改革はもちろん必要ですが、本質的には組織に入る一人ひとりの思考と実行の速度が、速くならなければならないのです。(略)
速いスピードに慣れると、それが普通のスピードと感じるようになり、そのスピード感が組織内に伝播し、組織全体のスピード感覚が、より速いほうへと変わっていくのです。だからこそ、トップはいうまでもなく、役員など上に立つ者こそが、率先垂範、魁より始めよ、自らが社内に混乱を起こすぐらいに、諸事、スピードを速めることが大事なのです。


p.133

ある大学の学者から面白い話を聞いたことがあります。産業革命のときに、機械化を拒否した熟練工は、機械化されたらダメになったという。ところが、それを受け入れた熟練工は、機械より上にいくぐらいの本当のプロになったということです。今のIT革命、デジタル革命にどう対応したらいいかを示唆する話ですね。


p.167

仕事というものは、言うまでもなく、全力を出し切ってするものですが、怒られないようにとの考えが先にたつと、仕事を貫徹するという目的を忘れてしまい、60点、70点程度しかとれない仕事になってしまうものです。その程度は、いわゆる“お茶を濁した仕事”ということになりかねません。そうではなく、仕事はいつだって怒られてもいいんだという気持ちで取り組むべきなんです。
私がよく言う言葉に、「困難という泥水を飲む」というのがありますが、怒られるということは、まさしく泥水を飲むことであり、それが将来、成長のための糧になるのです。

=仕事が良くできる人間ほど、よく叱られながら育ってきている


p.171

思考力とは、「集中力」と「考える時間」の掛け算です。


p.202

考えに考えた末の結論か、途中で思考を打ち切ったそれかは、見る人が見ればすぐにわかります。ある程度までは誰でも考えますが、そこから先が大変で、壁を乗り越えずに放置したものには、必ず欠陥が現れてくるものなのです。
だから私は、昔から「あと5分考え抜け」と言ってきたのです。それは自分を戒めるためでもありますが、あと5分考え抜くことで、他とは違う創造的な仕事ができるのです。省事にしろ考える力にしろ、一つの習慣であり、習慣づければ必ずできるようになるものなのです。この2つがある程度のレベルになれば、その人間はプロフェッショナルとして、大きく羽ばたくことになると、私は確信しています。


p.212

私は、経営とはビジネスデザインを描くこと、経営者とはビジネスデザインを描ける人材だと思っています。しかし、自分のデザインに酔ってはいけない。


p.218

私は、赤字は害悪だと考えています。赤字を出す会社は、社会に存在してはいけないのです。ネズミを取ってこないネコはダメなんです。株主から預かったお金を使って、赤字にし配当もできないとなったら、それこそ害悪です。社会のさまざまな有用資源を使っていながら、赤字を出すということは、それだけ資源をムダ使いしたことになるわけです。


p.220

私は経営にはロマンチシズムが必要だと思っています。経営者はロマンチストであるべきなのです。将来の成長と利益を生み出す夢を描くべきです。