眞木準 編『ひとつ上のアイディア。』

ひとつ上のアイディア。

ひとつ上のアイディア。


いろいろなクリエイターによる、アイディア発想講座。みんなそれぞれに違う手法を持っているけど、みんなアイディアの第一人者です。しかし、やっぱり圧倒的にすごいのは、「それに打ち込む時間の量」なのではないか、と。すべてのノウハウは、その上に成り立っているはず。まず参考にすべきは、そこなんじゃないかなぁ、僕は。
以下、メモ。

p.22 (大島征夫さん)

一般的な解釈というものは、あくまで正面から見たものだ。だが、視点は正面に置かなければいけないわけではない。反対側から見ても、上から見ても、下から見てもいい。
(略)
だが、正面の視点から自由になるのは決して容易ではない。アイディアを評価するときに用いる言葉を見ても、それは明らかだ。「新鮮」「斬新」「奇抜」。反対側に、既成概念や固定観念がふんぞり返っているのがわかる。
クリエイターはこうした既成概念や固定観念と戦いながら、まったく別の角度からの視点を提供するのが仕事だ。


p.29(大島征夫さん)

そして最終的に望むのは、嫉妬させてくれることだ。
ぼくはクリエイティブ・ディレクターの基本姿勢は、尊敬と嫉妬だと思っている。それぞれが50%ずつある状態。そうでなければ、いいクリエイティブ表現は生まれないとさえ思う。
まずクリエイターに対して、尊敬の気持ちをもって仕事を依頼する。そして、仕事を見て嫉妬する。そうさせてくれるのがいいアイディアだ。尊敬と嫉妬。どちらが勝ってもよくない。


p.35(佐藤可士和さん)

どうしてこんな無味無臭のものにお金を払うのだろう、大学生になるまでは水なんて買わなかったのに買うようになったのはなぜだろう、いま水を買いたいと思った動機は何だろうと、冷静に自分の行動や気持ちの分析をする自分です。
これがクリエイターの視点です。生活のなかで受けたさまざまなショックについて、この視点で自分の感情の回路を整理しながら考えてみる。それを重ねることで、いまの世の中を感じることができます。


p.37(佐藤可士和さん)

最も大変で、最も重要なのは、問題点を探し出すことです。それは絡まってしまったコードを少しずつほどいていくような作業を要するものですが、面倒でも時間をかけて地道に取り組めば、必ず明らかにできます。そして解決策も同時に見えてくる。
そのことがわかってから、ぼくは「アイディアが出ないのではないか」という恐怖心に悩まされることがなくなりました。


p.38(佐藤可士和さん)

よく若いクリエイターから「クライアントの理解がなくて、つくりたいものをつくらせてもらえない」という相談を受けますが、ぼく自身でいえば、表現のレベルでつくりたい作品などありません。
アイディアもデザインも、すべて問題を解決するためのものですから、少し極端にいえば、自分でつくった作品のことを「オレのものじゃない」と思ってもいます。
もしつくりたいものがあるとすれば、それはプロジェクトの成功です。だから、ぼくにとってのいい作品とは、あくまでプロジェクトの成功に貢献するもので、それがいいアイディアでもあるわけです。


p.50(多田琢さん)

ぼくはこれだというアイディアを見つけるまでは、とにかく考え抜きます。途中で面白いと思うものが浮かんでも、そこで考えるのをやめたりせず、違った切り口のものを探し続けます。


p.68(安藤輝彦さん)

ぼくは頭のなかでずっと、世の中というボードにアイディアというボールをぶつけつづけています。
いいアイディアは世の中というボードにぶつかると、勢いよく跳ね返ってきます。逆に悪いアイディアは、ぶつけても跳ね返らずに、そのまま真下に落ちたりする。あるいは、跳ね返りが弱いなどということもあります。
(略)
ぼくは、いつもこういう感覚で、世の中とアイディアの関係を考えています。
ただ、世の中に対して価値を提供したり、価値をつくっていこうとしたりするならば、まず世の中というボードのことを理解しなくてはなりません。
そのためには、まずは問題意識を持つことです。


p.80(檍満子さん)

どうしても許すことができないのは、いわゆる「こなし」で出したアイディアです。仕事が山積みになっている、課題が難しいなど、スタッフにもいろいろな事情があるのでしょうが、どんなアイディアもこなしで出すのはよくないと私は思います。


p.137(岡康道さん)

アイディアの本質は意表をつくことにあるとぼくは考えています。
でも、意表をついているだけでは不十分で、半分は正論でなければいけない。つまり、意表をついた正論であること。それがアイディアのあるべき姿だと思う。
(略)
そこでぼくがいつもやっているのは、頭の中にあるサイコロの6つの面を埋めることです。
例えば、以前つくった化粧品「UVカット」の広告を考えたときには、サイコロの最初の1面には、その商品そのものである「UVカット」という言葉を入れました。そして、それを転がしたつぎの面には、少し噛み砕いた「夏、肌が日に焼けない」という言葉。さらにもうひとつ転がした3つ目の面には、少しだけひねって「だから、海に行ったことがわからない」と書く。
その調子で思考を発展させて、4つ目の面には「アリバイ」と。5つめの面には…(略)
この連想ゲームのような方法は、単純なように見えて、実は6つの面をすべて埋めるのは簡単なことではありません。
(略)
それでも無理矢理に埋めていくわけですから、やや突飛過ぎる結論に到達することもあります。でも論理性に無理がなければ、アイディアとして成立するわけです。


p.152(小沢正光さん)

コピーやビジュアルなどのアイディアを出す人には、ぼくは「3回3ラウンド」という方法をすすめています。
この方法では、まずとにかく頭のなかで考えていることをすべて書き出すことからはじめます。多少は乱暴でもかまわないから、すべて紙の上に排出してみる。
つぎはそれを1枚の紙にひとつ、清書しながら整理するという作業。
それから選ぶ。1枚1枚、書いたものを壁に貼って、いいアイディアはどれなのか、あるのかないのか、選んでみる。たいていはほとんどものもが落選します。
それから2回めにかかるわけですが、またゼロから考えたことをとにかく紙に書いていく。こういう作業を3回くり返すわけです。
もちろん、〆切が近づいていて、時間がかぎられているときでも手順は同じです。たとえ1日でアイディアを出さなくてはいけないと言うときでも、3回3ラウンドが基本です。
(略)
考えるということは、紙に書いて出すということです。実際に、考えていますといっている人に、書いてみろと紙をわたしても、何も書けない人が多い。


p.158(小沢正光さん)
アップルの「Think dirrerent.」キャンペーンの思想の部分は、

子どもに対して「君たちは天才なんだ」と訴えかけるものだ、と教えてくれました。世の中にはさまざまなクレージーな人たちがいて、そういう人たちが世の中を変えるんだというメッセージだと。やはりそういうアイディアを持っているわけです。


p.168(小沢正光さん)

いつまでも広く見わたしているだけでは、浅いアイディアしか生まれません。やはり、ここだと思うところを見つけたら、一心に同じところを掘っていく必要があると思います。
新人が書いたコピーを見ていても感じることですが、たいていの人は見つけたと思ったら、その時点で作業を終えてしまいがちです。これだと思ったところから、愚直に掘り進んでいくという作業を、普通の人はあまりやろうとしません。
ぼくはそこにプロと素人の差があると見ています。