藤原正彦『国家と品格』

国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)


日本は、ついつい、教育や学力などをアメリカと比較しがちです。でも、ちょっとのんびりと構えてはいられないかもしれない、と思った。

学校数学がアメリカに並ばれたというのは、私には恐ろしいことに思えます。初等中等教育が十分に機能しなくてもどうにかなる国は、世界中でアメリカだけです。アメリカの桁違いの富に惹かれて、世界の天才秀才が研究者や技術者としてやってきますから、アメリカ生まれの人々が低迷していても、国力が衰えるということはまずありません。(p.160)

ほんとだよ、海外から優秀な人材が流入してくることが少ない日本は、自前で育てなきゃいけないんだよなー、といまさらながら実感。危機感増大です。
やっぱり、アメリカの大学院ってみんな優秀?外国人多い?>留学してた皆様

以下、メモ。

p.42

内容がないのに英語だけは上手いという人間は、日本のイメージを傷つけ、深い内容を持ちながら英語は話せないという大勢の日本人を、無邪気ながら冒涜しているのです。(略)
初等教育で、英語についやす時間はありません。とにかく国語です。一生懸命本を読ませ、日本の歴史や伝統文化を教え込む。活字文化を復活させ、読書文化を復活させる。それにより内容を作る。遠回りでも、これが国際人をつくるための最もよい方法です。


p.50
論理には出発点が必要

ところがこの(引用者:論理の)出発点Aを考えてみると、AからはBに向かって論理と言う矢印が出ていますが、Aに向かってくる矢印は一つもありません。出発点だから当たり前です。
すなわち、このAは、論理的帰結ではなく常に仮説なのです。そして、この仮説を選ぶのは論理ではなく、主にそれを選ぶ人の情緒なのです。宗教的情緒をも含めた広い意味での情緒です。
情緒とは、論理以前のその人の総合力と言えます。その人がどういう親に育てられたか、どのような先生や友達に出会ってきたか、どのような小説や詩歌を読んで涙を流したか、どのような恋愛、失恋、片思いを経験してきたか。どのような悲しい別れに出会ってきたか。こういう諸々のことがすべてあわさって、その人の情緒力を形成し、論理の出発点Aを選ばせているわけです。


p.59
長い論理は危うい

ながい論理は使えない。だから、現実において論理のリーチは極端に短い。ワンステップしか使えないような論理が幅を利かせている。
例えば、なぜ小学校で英語を教えるなどということになったのでしょうか。(略)こんな論理です。「小学校で英語を教える→英語がうまく話せるようになる→国際人になる」。たったツーステップです。凄くわかりやすい。だから国民は大喝采で支持する。ところが最初のステップが正しい確率は0.1以下です。アメリカ人でも国際人と呼べる人は10人に1人はいませんから、次のステップも0.1以下です。かけると0.01以下となり、信頼性のない論理となります。


p.111
4つの愛
・家族愛
・郷土愛
・祖国愛
・人類愛
この4つの愛は、延長線上にある、家族愛からスタートし、郷土を愛し、国を愛す。いきなり地球市民などにはなれるはずがない。


p.113
愛国心の2つの側面
・ナショナリズム
他国のことはどうでもいいから、時刻の国益のみを追求する。国益主義。戦争につながりやすい考え方。
パトリオティズム
自国の文化、伝統、情緒、自然、そういったものをこよなく愛すること。美しい情緒なので、世界中の国民が絶対に持っているべきもの。


p.148

社会に出てからは、すぐに読むべき本が多すぎて、名作にはなかなか手が伸びない。心理的余裕もない。名作は学生時代に読まないと一生読めないと考えた方がよい。


p.153

美しい情緒は「戦争をなくす手段」になるということです。論理や合理だけでは戦争を止めることは出来ません。これは歴史的に証明されております。古今東西、いかなる戦争においても、当事者の双方に理屈がありました。事故を正当化するために、論理はいくらでも作り出せます。出発点の選び方によって、いかような論理を組み立てることも可能だからです。実際、歴史を振り返ると、論理とは「自己正当化のための便利な道具」でしかなかったことを思い知らされます。


p.160

学校数学がアメリカに並ばれたというのは、私には恐ろしいことに思えます。初等中等教育が十分に機能しなくてもどうにかなる国は、世界中でアメリカだけです。アメリカの桁違いの富に惹かれて、世界の天才秀才が研究者や技術者としてやってきますから、アメリカ生まれの人々が低迷していても、国力が衰えるということはまずありません。


p.176

数学や文学や芸術活動などがどれくらい盛んかを見れば、その国の底力がわかってしまう。一般には、そんな見方はされません。「ここ10年の経済発展が著しいから、これからはこの国が凄い」という素朴な議論が主流です。そんな言葉を新聞やテレビで聞かされても、眉唾に思えてならないのです。


p.186
品格ある国家の指標
1.独立不羈
2.高い道徳
3.美しい田園
4.天才の輩出

p.162

私がやっている数学なんて、直接的には何の役にも立たない。ひょっとしたら500年後くらいなら役に立つかもしれないけれど、現段階ではそれすら分からない。それでも、こうした「すぐ役に立たないこと」を命がけでやっている人の層が厚いということが、国家の底力と思うのです。