児玉克哉・中西久枝・佐藤安信『はじめて出会う平和学 未来はここからはじまる』

はじめて出会う平和学―未来はここからはじまる (有斐閣アルマ)

はじめて出会う平和学―未来はここからはじまる (有斐閣アルマ)


「平和学」という聞きなれない学問の名前がタイトルに入っている本。でも、「平和学部」なんてあれば、きっとその大学を受験しただろうな、と思う。もちろんそんな学部なんてなくて、だからいちばん近いと思った学際的な学部を受験したわけですが、その方向性は間違ってなかったなあ、と思ったり。
で、内容的には…わかりやすくいろいろなことが紹介をされていますが、でももう一方踏み込めていない、というか。「あれも問題でしょ」「これも問題でしょ」というふうに挙げていくことはもちろん大事なのだけど、それ以上に踏み込まない感じがもどかしい。どうやったら踏み込めるのか、その姿勢とそのための知識と準備こそ、知りたいのに、と思った。
ただ、知識的に「エクスポージャー型教育」という新しい概念を知れたことは良かったと思う。これからの自分の方向性の指針のひとつになりそうな感じ。
以下、メモ。

p.79
ヨハン・ガルトゥングによる概念

消極的平和:
単に戦争がない状態

積極的平和:
社会正義が果たされて飢餓や貧困もなくなった状態

暴力の概念を分類
直接的暴力(戦争)と構造的暴力(飢餓や貧困)

p.88

平和教育は平和に関する知識を「覚えこませる」だけでは不十分であり、平和を実現するための展望を描く想像力と、それに実現するための創造力を会得する力をつけることが重要である。

ユネスコ平和教育特別賞


p.130
スウェーデンの移民政策
・無料のスウェーデン語講座
・移民の子供への母語教育制度
・給料制の職業訓練学校
民族差別禁止オンブズマン
・1年以上滞在するものは国籍に関わらず、福祉制度が適用される

限界も出てきている


p.168

平和学は「病理学」にたとえられる。病理学は、以上をきたしている身体の病状を分析するとともに、その原因を探り、その病状に対処する処方箋を研究する。こうした異常が起こらないようにするための予防の研究も重要である。平和学は、病理学における身体を地球に置き換えたものといえる。地球社会における異常を分析し、その異常を克服するための処方箋を模索するのが平和学なのである。


p.173
ケネス・ボールディングによる2つの経済モデル
カウボーイ経済:
アメリカ西部開拓時代のように、資源の枯渇の心配がない経済発想

宇宙飛行士経済:
宇宙船の中の物は有限で、水も空気も食料も、特別な工夫をしない限り、いつかなくなる。人間が出す二酸化炭素や排泄物が宇宙船内部を汚染する。限られた資源を分配せざるをえない経済発想


p.262

平和学は現実社会に「エクスポーズ」(触れる)する必要があり、そのためのさまざまな工夫が求められる。とくに平和学を「学ぶ」ときには、主体的に考え、行動し、議論するいわゆるエクスポージャー型の学習姿勢を持つことが重要である。


教室の中でゲーム
ワークショップで討論
戦争被害者に体験を聞く
平和ミュージアムを訪問する などなど


p.266

平和な社会の創造のための具体的方法としてエンパワーメントや「可能性の拡大=イネーブリング(enabling)」の重要性が叫ばれている。


p.276

いろいろな意見をすぐに否定するのではなく、そのプラスの意味を読み取り、肯定的に受け取ることは、エクスポージャー型教育の基本的な姿勢である。「自分の意見が否定されない」ことが「意見を出しやすい」ことにつながる。また、否定的なとらえ方や評価をすると、自尊心がずたずたにされることもある。セルフ・エスティーム(自負心)を育てることも平和教育の重要な役割である。