美馬のゆり・山内祐平『「未来の学び」をデザインする 空間・活動・共同体』

「未来の学び」をデザインする―空間・活動・共同体

「未来の学び」をデザインする―空間・活動・共同体


今、仕事として教育カリキュラムのデザインと言うのをやっている。授業を受ける側だった僕は、多分決して扱いやすい生徒ではなく、「なにやってんだよー」「知ってるしー」「そんなことより塾のテストが…」「体育祭どうする?」みたいなことばかり思ってた生徒でした。先生のやり方が気に入らなくて、教室の後ろの黒板でクラスメイトを集めて社会の授業をやったこともあります。先生、ごめんなさい…。
それが回りまわって今は教える側のお手伝い…。不思議なもんだなあ、と思います。でも、生徒たちを夢中にさせてしまって、その中でいろいろなことを学ばせる授業を作る、っていうのはすごく好きな仕事。やっぱり、教え方にも問題あったと思うもん。

そんなわけで、どんなふうに「学び」をデザインするか、というのは興味があるものなのです。実際に学校を作ったこともある、実践的な話や体験談も出ているのでおもしろいですね。学校…楽しそうだな。こういう楽しそうなクラスルームを作らなきゃだめだよな。コンテンツもシステムも大事だけど、ハードウェア(入れ物)も大事だな…。いちからやり直しだ(私信)

以下、メモ。

p.30

人間の認知は、状況や文脈に深く依存しているものであることが明らかになってきました。そこから新しい学習理論が生まれてきました。その理論の中では、社会や文化的な背景の中での人間同士の対話ややりとりが重視され、その人が生きている実践共同体への「参加の過程」に注意が向けられます。


p.71
公立はこだて未来大学


大学の学習環境をデザインするときに必要なのは、ハードウェアとしての物理的環境と、それを運営するためのソフトウェアです。物理的環境の特徴は、教室や教員研究室が透明なガラス張りであることや、オープン・スペースを多用している点にあります。ガラス張りの教室、実験工房などは、廊下を通った人がちょっとのぞいてもおもしろそうだなと思ったら立ち止まって、見ることを可能にしています。そこで行われている内容や、教育の方法についても見ることができます。工房での作業風景は、自分が今まで興味のなかったもの、知らなかった世界を見せてくれるかもしれません。オープン・スペースも同じです。そこで行われる授業や作業は、必然的に公開されます。昨年自分が行った活動を今年の学生はどうかな、と先輩が見ることがあるでしょう。来年の自分の姿をそこに見る後輩もいるでしょう。あの人は何を教えているのだと、見ようと意図しなくても、そこを通りかかれば自ずと、同僚の教職員の目に飛び込んできます。こうやって、日常の活動の中で、新しいものを見る、知る、考える、学ぶ機会を、この空間は提供しています。


p.85
学習環境デザインにおける空間の重要性

イリイチが理想としたのは、コンヴィヴィアル(convivial)という言葉で表現した状態です。コンヴィヴィアルとは、人々と道具と新しい共同体が結び合った社会の状態を表しています。「自立共生的」「共愉的」などと訳されています。完了、商業主義的社会に対し、個人の違いを認めつつ、協調し、共に豊かに生きていくという意味では、インターネット社会に通じるものがあります。(略)新しい学習観では、(注:一斉授業ではなく)何らかの社会的実践に役割を持って参加する過程を学習と考えます。初心者から熟達者まで様々なレベルや役割の人が活動する様子を見ながら参加することで、近い将来の自分の姿をそこにみつけ現在の自分の位置を意識化しそれが次の活動へつながっていくのです。


p.144-145
「学習の意味」に対して、活動が与えてくれる答え:
・発見や創造的活動に埋め込まれている意味
→ものを作ったり、何か新しいことを発見すること自体が面白さを持っている
→単純な記憶活動ではなく、活動の形で表すようにすることで、学ぶ意味を見つけやすくなる

・葛藤の中に埋め込まれている意味
→何もかもがスムーズにいく活動はおもしろくないし、学びも少ない
→何かうまくいかないことを乗り越えるという「葛藤」の経験が必要
→葛藤の中にいるときには苦しいが、後からふり返ったときに、学習者に学ぶことの意味を提供してくれる

・共同体に埋め込まれている意味
→内容的に必ずしもおもしろいことでなくても、共同体の活動にとって必要なことであれば、それを学習することに意味が発生する
→何かをすることで共同体の中で認められ、その共同体に深く参加できるようになる。その過程で学ぶ意味を見つけやすくなる



活動は、知識や思考という栄養素が含まれていると同時に、それを額取捨が取り入れることができるための「文脈」という水分もある豊かな土壌だと考えることができるかもしれません。(略)それに比べると、記憶や訓練に頼る学習は、栄養素を詰め込んだサプリメントのようなものです。サプリメントが必要な時もありますが、サプリメントだけで豊かな実りを期待するのは難しいでしょう。


p.152
認知的徒弟制(Cognitive Apprenticeship)の4段階
1)モデリング(規範の提示と目的の認識)
2)コーチング(親方による個別指導)
3)スキャフォルディング(ひとりだちのための足場作り)
4)フェーディング(援助の減少とひとりだち)


p.174

ウェンガーが実践共同体の3つの要因の中にあげているように、共同体の成立と深化に必要なのは、関心の共有と、それを支える共通の目的を持つことです。関心を共有するだけでは、持続的な活動は難しく、持続的な活動がなければ共同体のような濃密な人のつながりはできません。


p.195
未来の学びのための環境をデザインする方法論

活動(Activity)
・学習が生起する可能性が高い濃密な活動のアイデアを考える
・活動の目標を明快に
・活動そのものにおもしろさを
・葛藤が含まれている活動にし、「困った状態を何とかしたい」と思うときに、学習が発生する可能性が高い(Hard-Fun=くるたのしい=くるしい+たのしい)

空間(Space)
・参加者全員にとって居心地の良い空間に。安心して考え、自分を表現できるようにする
・必要な情報や物が適切なときに手に入る
・他者の作品や学習の歩みを表した刑事物
・作業に必要な道具や素材がいつでも手に入る
・仲間とのコミュニケーションが容易に行える

共同体(Community)
・目標、興味、関心、問題を共有し、経験を共有する
・全員に参加の方法を保証する。周辺的ではあるけれども、共同体にとって重要な役割を果たすメンバーをたくさん持っていることが、共同体の力につながる
・共同体のライブラリーを作る。共同体独自の言葉遣いややり方などを、新規参入者がわかるようにする


p.204
学習のデザイン
(1)最初に試験的な実践を行い、改良する
・小規模な実験的実践を行い、それを評価しながらデザインを改善していく
→形成的評価(Formative Evaluation)
(2)実践が終わるまで継続的にデザインを行う
・実践が長期にわたる場合は、徐々に修正していく
・デザイナーが継続的に実践をモニターして評価を行うパターン