素樹文生『愛のモンダイ』


スピッツについての文章がとてもよく、メモしてみました。でも、僕は彼のようには読めない…それが悔しい。

p.110

スピッツはスゴイ。草野正宗は天才である。これだけは間違いない。僕はこの人の世界を愛している。愛しているから天才なのではない。好きなタイプの天才だから、好きなのだ。
(略)
理解してほしい。好きにならなくてもいい。全神経を集中して、パズルを組み立てるように、彼の言葉の裏の意味を読み解いてみてほしい。
理解すれば、そこにはものスゴイ世界が待っている。それはまるで古代エジプトの象形文字を初めて解読した人の気持ちにすら近いだろう。理解できなければ、たんなるセンチメンタルな甘い響きの歌で終わるだろう。でも、そうではありませぬ。
(略)
僕の1.4倍くらい感度のいい編集者Tは、ある夜『君が思い出になる前に』がコンビニの天井から流れているのを聴いていて、小銭を払ってから外へ出て歩いていたら突然、「わあかったぁ!!!!」と目を見開いて一人で叫び出したそうだ。
その感覚わかるわかる。天才を理解するとはそういうことなのだ。


p.115

ネタばらしになるが、少しだけ草野正宗の書く詩の世界を理解するためのキーワードを残しておくとしたら、
それは「君」である。つまり対象だ。
ほとんどと言っていいほど歌の中に「キミ」という言葉が出てくる。この意味を履き違えると世界はまったく違ったものになる。
キャンディーとして歌詞カードを舐めている人はそれを「昔の彼女」とか単純に思うかもしれないが、それは違う場合が多いのでイロイロと試行錯誤を繰り返してみてください。
「君」とは、もっと変幻自在で漠然としたもの。けれど確固たるもの。たとえば「音楽」と、その「音楽」の向こう側にある「誰か」。「何か」。もしかしたら自分が愛するものすべてかもしれない。それをハッキリと意識した日から「くすぐり合って転げた日」には二度と戻れなくなる。