市川伸一『学ぶ意欲とスキルを育てる』

学ぶ意欲とスキルを育てる―いま求められる学力向上策

学ぶ意欲とスキルを育てる―いま求められる学力向上策


「教師の役割というのは、こうした「なりたい自己」や「なれる自己」を広げる支援をする」ことだ、というのはとても納得ができたりする。学ぶ意欲を高める、というのは最近の僕のキーワード。

以下、メモ。

p.19

学力という中にも、学んだ力としての学力と、学ぶ力としての学力があります。

・学んだ力としての学力
→「こんなことを知っている」「こんな計算ができる」

・学ぶ力としての学力
→学習意欲、知的好奇心、計画を自分で立てて学習を進めていく力、学習方法をレパートリーとしていろいろ持っていて臨機応変に使っていける力、勉強をするときの集中力や持続力、コミュニケーション力


p.36
学習意欲=動機づけ(motivation)
1)外発的動機づけ
・物質的な賞罰、賞賛・叱責など、外から与えられる目標を目当てにする

2)内発的動機づけ
・「知りたい」「できるようになりたい」と学ぶこと自体の楽しさを求めて学習


p.37
学習動機は、学習内容の重要性と学習の高利性によって、
・充実志向(学習自体が楽しい)
・訓練志向(知力を鍛えるため)
・実用志向(仕事や生活に生かす)
・関係志向(他者につられて)
・自尊志向(プライドや競争心から)
・報酬志向(報酬を得る手段として)


p.41

人は最終的に、「なりたい自己」と「なれる自己」の重なりから、何かを選んでなっていく。その重なりを豊かに広げておく。そういう働きを学習というのは持っているわけです。とくに、頭が柔軟で、時間も十分ある学校時代にこそ、それがやりやすい。教師の役割というのは、こうした「なりたい自己」や「なれる自己」を広げる支援をするということにほかならないと言えます。


p.54

ところが、「いずれ役に立つから」という理由で「基礎から積み上げる学び」を押し付けるだけでは、なかなか今の子どもたちはついてきません。学ぶということの実質的な意味づけや意義がわかるような、そういう学習も取り入れていく必要があるのだろうということです。目的的な行動、「こういうことがやりたい」ということがあって、その過程で必要感を持って基礎を学ぶ。日常的には私たちは、そういう学習をたくさんやっているわけです。そこでは、実践性とか、実用性ということが重視されます。なんのために学んでいるのか、ということが非常にはっきりしている。それをここでは、基礎に降りていく学びと呼びたいと思います。

※部活の基礎練がイメージとしては近い。


p.64
ニューズウェブ(Students' NewsWeb)
→高校生がウェブマガジンを作る


p.74
ドリカムプラン(福岡県立城南高校
1年:調査の学年、2年:行動の学年、


p.117

学習スキルを自覚的にとらえることを子どもに促す必要とその効果があるのは、とくに小学校の高学年くらいからではないかと私は考えています。小学校低学年のうちは、学習する量がなんといってもまだまだ少ないし、具体的な素材が多いのです。しかも、発達段階からいって、「習うより慣れろ」という学習方法でそれなりに効を奏する時期でもあります。機械的な反復学習も、むしろ楽しんでやっています。ところが、中学校に入ると明らかですが、学習する内容が増えて、抽象的な概念を多く扱うようになります。しかも、それを「教科書」や「教師の説明」という言語を介して獲得することが要求されます。これは、子どもにとっては、パニックとも言える学習の転換で、私は、「小学校までの学習は日常モード、中学校からの学習は学問モードで行う」という言い方をします。
思春期ともなると、意図的に自分の理解状態を診断したり、学習方法を改善したりするはたらき(いわゆるメタ認知)も高まってくるので、なんとか学問モードにも対応できるはずなのです。ただ、それはすべての子どもが自動的に、しかも一足飛びにできるわけではありません。やはり、小学校の高学年くらいから徐々に学習スキルを身につけていく必要があるのです。ここでいう新たに身につけてほしい学習スキルとは、学習理論で言えば、認知理論に沿ったものです。「単純な反復習熟よりは、学習方法を工夫すること」、「丸暗記よりは、内容を理解し、知識の関連づけを図ること」、「まったくの試行錯誤で問題を解くよりは、適切な方略を用いること」などを重視した理論ということになります。


p.155
放課後学習チューター:
大阪府「まなびんぐサポート事業」(2002年度〜)


p.197

たくさんの教科を学ぶことは自分の可能性を広げることです。なりたい選択肢を広げ、自分がなれる選択肢を広げる、この両方を広げておかないと、単に食わず嫌いのままでやりたくないことをやめちゃって、「自分はこれでいい」ということになる。結局、つぶしがきかないことになってしまう。「早めに目標をしぼって、他のことをやらない」ということがどれほどリスクが大きいことなのか。それを子どもに知ってほしい。