赤堀侃司『学校教育とコンピュータ』

学校教育とコンピュータ (NHKブックス)

学校教育とコンピュータ (NHKブックス)


1993年出版の本。12年も前の本か…情報が古くなってしまっている部分ももちろんあります。ここ10年で大きく学校でのコンピュータ利用状況って変わってますから。でも、理論的な部分については、今でもまだまだ読める部分がたくさんありました。勉強になった。特に専門的に勉強しないまま、叩き上げで仕事をしているので、学説などの独学でのフォローと新しい技術のチェックはしていかないと。

以下、メモ。

p.63-64
我が国の情報活用能力の分類
1)情報の判断、選択、整理、処理能力及び新たな情報の創造、伝達能力
2)情報化社会の特質、情報化の社会や人間に対する影響の理解
3)情報の重要性の認識、情報に対する責任感
4)情報科学の基礎及び情報手段(特にコンピュータ)の特徴の理解、基本的な操作能力の習得

カナダのコンピュータ教育
A)コンピュータについて(about)
→日本で言えば2)3)4)にあたり、操作方法や教養
B)コンピュータを用いて(using)
→日本の1)にあたる。ワープロやDBなどを用いた情報処理
→教科の学習を支援する内容もある
C)コンピュータで(with)
→強化学習のためのコンピュータ利用であり、CAI


p.80
授業でのコンピュータの活用
1)コンピュータが教師役
→チュートリアル型、応答機能が弱くあまりよい効果を持たない?
2)コンピュータが教科書役
→コンピュータは判断の作業はしない
→学習者の思考を活性化させる
→シミュレーション教材などがここに含まれる
3)コンピュータは教師の補助役
→OHPやビデオ教材と同じ、提示用教材
4)コンピュータが学習者役
→コンピュータの中に擬似的な学習をする子供を組み込む
→子供がキャラクター(PCの中の子供)を教えながら学ぶ
5)コンピュータが新人教師役
→新人教師や教育実習せいの指導法の訓練用教材に利用できる
→上手な指導をすれば、コンピュータ内のキャラクターが成長する


p.120
シミュレーションの8つのタイプ
1)手順や危険な体験をさせるシミュレーション
・危険な内容を体験させることによって回避できるようにする
・もし危険な事態になったときの対処の仕方のシミュレーションなど
・できるだけ現実とシミュレーションが類似している必要がある
2)視点の変化を表示するシミュレーション
・天体の観測を地上からするのと宇宙の一点から観察する
・物体が落下しているときに、物体からどのように見えるかなど、
 体験できない視点を見せることができる
3)計算の結果を表示するシミュレーション
・家計簿や栄養計算など、
 「もし〜〜を20%削減したら?」などを計算してみる
4)規則を学習するシミュレーション
・運動の法則や経済の法則が組み込まれていて、
 法則を帰納的に学習させる活用方法
5)データベース形式のシミュレーション
・データベースを使ってデータを検索し、
 その属性をさまざま変えながらマッチするものを探していく
6)ゲーム形式のシミュレーション
・生物連鎖と環境との因果関係のルールなどを組み込んで、
 ゲームの中で因果関係のルールを意識しないで学習する
7)シミュレータ機能を持つシミュレーション
・グラフ作成や計算をじっさいにやってみてシミュレーションをする
8)道具としてのシミュレーション
・ソフトを使ってのシミュレーション


p.129

自らの考えや自らの意見、自分なりの発見は、興味や学習意欲につながるものである。科学の発見や研究の多くはこのような体験を通して培われたものであろう。三角形の図形をいろいろ変形しても、必ずこのような関係が存在するとは、何ときれいなのだろうという図形に対する一種の驚きや美しさが、もっと調べたい、なぜそうなるのかきちっと証明したいという意欲や興味につながるのである。
その自らやってみたいという気持ちを持って主体的に学習することを事故学習力と呼ぶならば、そのような興味や意欲は学習の入口でありエンジンである。そのエンジンを生徒たちに持たせることが重要であり、このことがシミュレーションに限らず、教育ソフトすべてにいえるのである。そのようなコンピュータの使い方が望まれており、そのための教育方法の研究が期待されている。


p.169

学習過程、特に問題解決過程には、必要な情報を検索するという操作が不可欠である。社会科の調べ学習はわかりやすい事例であるが、このような資料を探すという直接的な過程だけでなく、一般的に問題解決過程は問題空間の探索過程と言われる。


p.171

その空間を探索しながら推測によってある関係を導いたときに、この幾何の問題が解けたという状態になる。すなわち知識のデータベースの探索と推測・推論とによって、問題解決していると言える。このとき、知識を探索するという過程は、関連している知識が対象となっている。


p.171

商業科の高校生を対象にした物理の授業を参観したことがある。生徒たちはあまり物理に興味を持ってはいないように見受けられたが、その先生は、新聞記事をOHPにして提示し、生徒たちと対話し活気ある授業を展開した。新聞記事は高速道路における自動車事故を報道した内容であったが、その事故現場は事故が多発するという。物理には興味はないが、車に興味と関心を持っている生徒たちは、口々にスピードはいくらかとか事故にあいそうになった経験等を話し始めた。
(略)
はじめは雑談風の物理と関係のないことから対話し、いつの間にかまさつ力とか遠心力とか加速度といった内容に入り、その事故原因を生徒とともに解明していったのであった。


p.192
インターナショナルバカロレア(IB):
・国際的な大学入試(受験)資格のための制度

IBの情報科学の内容(Computing Studies)
(1)特性
・コンピュータの操作と人間活動とのかかわり
・コンピュータの役割 人間の意思決定の支援
・社会の変化に対応
問題解決 論理性
課題分析 複雑な課題
設計能力 構造化と手続き
思考、意思決定の理解
技術が社会に及ぼす影響
(2)目的
1.社会におけるコンピュータの役割、応用範囲と限界
2.コンピュータアーキテクチャと操作
3.論理的な思考と問題解決のための分析
4.プログラミングの技能
5.コンピュータ技術の限界


p.202

まず問題を分析して、これをどのように表現するかを考え、論理的に矛盾がないように組み立てるのであるから、分析力や設計力が必要とされるのである。問題解決において重要な能力は、この分析や設計と言える。文章を作成する、絵を画く、橋を作る、人工衛星を打ち上げる、学習指導をする等、これらは問題解決と言える。つまりその人の訴えたい意図を文字で表現するにはどう文章を構成したらよいか、絵を画くときはどんな材料を用いてどんな構図にして表現したらよいか、橋や人工衛星といった大規模なシステムにおいても同様である。