ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク 世界を知るための進化学的思考法』

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

ここ数年に読んだ本では抜群におもしろかった、アルバート・ラズロ・バラバシ『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』をさらに深めたいと思って読んだ本。バラバシの本の方がインパクトはあったかなぁ。あ、つまらなかったわけではなく、おもしろかったんですけどね。

割り勘のジレンマは、授業で使えるんじゃないかと思った。あと、ミルグラムの実験について自分の知識を補強できたのもよかったな。6 degrees of separationの考え方は、SNSとかと合わせて、どうにかして子どもたちに伝えたい概念でもある。伝えたい、というよりは実感させてあげたい、というべきかな。

以下、メモ。

The Oracle of Bacon(University of Virginia)

p.249-250
割り勘のジレンマ(ナタリー・グランスとバーナード・ハバーマン)

ちょっとしたレストランへ大勢の友人たちと、割り勘の約束で食事に行ったとしよう。メニューには、値段が安めの簡素なパスタから、贅沢なフィレ・ミニヨン・ステーキまで、多彩な料理が載っている。もしそこにいる全員が値の張る品を注文したら、全体として高い食事になるから、あなたがパスタを注文すれば当然みんなのためになる。逆に、もしあなたがステーキをとりほかのみんながパスタで我慢したら、あなたは豪華な食事にほぼ半額でありつけることになる。さらに付け加えるなら、もしあなたがステーキを注文せずほかのみんなが注文したら、つまらないスパゲッティー一つに法外な金額を払わされることになる。注文する品を選びながらそれぞれが思い悩むのは、もちろん自分自身の満足と友人たちの福利のどちらを重視するか、という問題だ。


・「社会的ジレンマ」の一例としてよく引用される
・リサイクリング事業亜公共交通機関といった集団の利益が成立するために、集団の大多数が利己的な選択肢ではなく、公益に貢献する選択肢を選ぶ必要がある。

※「共有地の悲劇」(ギャレット・ハーディン)も有名


p.372
訳者の辻さんによるあとがきから。

ミルグラムの実験の不備:
ミルグラムの実験のターゲットが、すでにいくつかの手がかりとなる属性が与えられている(その人の名前、住所、性別や職業などの情報が与えられている)

・人々がターゲットに近づこうとするには、そういった手がかりとなる情報を活用しつつターゲットに到達しようとする


だとすれば、ミルグラムの実験の結果が示す重要なことは、しばしば解釈されているように、「任意の」2人が、たった6ステップでつながるのは驚きだということではなく、手がかり情報を与えた「特定の」他者へならば、6ステップもあれば、意外にたやすく絞り込みができるのかもしれないということだった。しかし、我々の思考は、「かもしれない」というところで止まってしまっていた。我々の関心は、本当に何も手がかりのない他者をターゲットにすれば、本当に6ステップで他者とつながるのだろうか、ということだった。


ワッツは、
「手がかりのない他者同士でも距離が近いということを、たった3つほどのパラメータしかない簡単なモデルで見事に示した」