中村伊知哉『デジタルのおもちゃ箱―MITメディアラボから見た日本』

デジタルのおもちゃ箱―MITメディアラボから見た日本

デジタルのおもちゃ箱―MITメディアラボから見た日本


子どもとデジタル、という切り口から言うと、いつかしっかりリサーチしたいと思っているメディアラボ。いろいろと紹介してもらえそうな近い関係ではあるのですが・・・。
「Demo. Or Die.」の考え方が好き。

メディアラボの古くからのモットーに、「デモか死か」というのがある。実物で示したまえ、という意味だ。ここでは学問としての研究や批評より、発明が評価される。論文より、モノやプログラムや作品がモノをいう。未来の予測なんてのは評価の対象外だ。形で見せて初めて仕事をしたことになる。

p.032

ベンダー所長が言う。「メディアラボの性格を代表する言葉は、イマジンとリアライズだ」。頭で思い描いて、それを実現すること、という意味だ。想像して、創造せよ。元はジョン前田の言葉らしい。
これと同期する言葉で、メディアラボの古くからのモットーに、「デモか死か」というのがある。実物で示したまえ、という意味だ。ここでは学問としての研究や批評より、発明が評価される。論文より、モノやプログラムや作品がモノをいう。未来の予測なんてのは評価の対象外だ。形で見せて初めて仕事をしたことになる。


p.032
2Dと2C
Diversity(多様性)
Demo(デモ)
Create(クリエイトし続ける力)
Change(常に変化している、澱まない)


p.36

いつも新領域にチャレンジしている。流れている。澱まない。それは常に自らを破壊し続けること。成功体験を拒否していくことだ。ネグロポンテがそうした精神をまとめて話したことがある。「権威を疑うことだ。違いを尊ぶことだ。エスタブリッシュメントになることを拒否することだ。自分を発明しつづけることだ」。
とても困難なことだ。


p.41

放課後教室、遊び、実験アート、デジタルデバイド、こども新聞、コミュニティ活動。オオカ・ランチにはさまざまな実践者が姿を現わし、メディアラボと外部との接点をなしている。
デジタルと社会との関わりを探求すること。技術的な課題をコミュニティからフィードバックさせること。このような、いわばアプリケーションの分野は、技術とアートに並ぶメディアラボの支柱だ。特に、こどもや途上国など、デジタルの恩恵を受ける効果の高い人たちや地域に光をあてている。新しい技術を提供して、こどもや途上国が創造力を発揮していく環境を整える。実践を通じて、次世代の技術を考え直す。


p.73

ユビキタス」とは、いつでも、どこでもネットワークにつながっているということだ。これに比べると、帯域の広さは、ほとんどの場合においてさほど重要ではない」(ネグロポンテ、『Harvard Business Review』2001年12月号のインタビュー)。
容量や速度よりも大切なのは、みんなが「つながる」インパクトだ。いつも「つながっている」感触だ。それは、1ビット/秒でもいい。小さな機能が分散していて、全体がつながっていることによる総合的な効果だ。
ロブ・プア博士は言う。「混んでる立食パーティーで、キャビアが食べたい。おーいキャビア取ってくれと大声で言うよりも、隣の人にキャビア欲しいってささやいたほうが早く手に入る。言葉がリレーされていって、キャビアがリレーされてくる」。


p.101

ベンダー所長は、高齢者によるオンライン・コミュニティの活動を支援している。各地のお年寄りが知恵を持ち寄って、交換するプラットフォームを提供している。同時に、『ジュニアジャーナル』と呼ばれるウェブ新聞も開設している。54カ国、120人のこどもジャーナリストが記事を投稿するコミュニティで、メディアラボがそのシステムを提供している。


p.119

ジョン前田が並みのデザイナーのはるか先にいるのは、作品の出来栄えだけではない。彼はコンピュータ言語を自ら作る。道具から作っていくのだ。画家が筆や絵の具から作り始めるようなものだ。ソフトウェアという道具は、それぞれ機能と性格がある。どの道具を選ぶか、アーティストはすでにそこで制約されている。
「道具との柔軟なコミュニケーションが必要だ」と彼は言う。しかもその言語体系は、驚くほど単純にして、高度で複雑で美しいグラフィックを描く。
「実際にコードを書けないと本当にコンピュータでモノは作れない。できあいのソフトウェアを使うと、デザイナーは自由な創造力の幻想を抱き、自分に想像力があると思い込む。しかしそれは、別の人の想像力の枠内にあるんだ」。
このように彼はアーティストであり、コンピュータ科学者である。だが私は、彼の本領は、「先生」としての面にあると思う。デザインを模倣して伝承することではなく、その生産装置を産むという姿勢をより若い天才たちの前で実践し、彼らに実践させている点にある。


p.143

これまでITは、技術を開発するブームの段階だった。IT産業の段階だった。ようやくそれが利用の段階、日常のステージに移った。産業のIT化の段階だ。IT革命の時代は終わったが、実の革命はこれから始まる。