村上龍『13歳のハローワーク』

13歳のハローワーク

13歳のハローワーク


けっこう売れているらしいですね。でも、この本はおもしろいっすよ。仕事の紹介もいいけど、村上龍のエッセイ部分が好きだな。漁業のところとかね。おすすめです。
「リスク」っていう、およそ13歳が聞いたこともないだろう言葉を使って、仕事を語っていくというのはいいと思います。
今日、中学生の教え子にぴったりなページがあったので見せようと思ったら、「その本、持ってるし。そのページ読んだし(笑)」と笑われてしまいました。さすがだ。

パラパラみていると、やはり教育系に目が行くみたい。メモ。それと、自衛官という職業に就くことについてのコメントが考えさせるものがあったので、これまたメモ。

p.237

海外の学校に注目が集まっているが、当然かもしれない。分野によっては海外の教育のほうがはるかに高度で最新の知識を得られる場合がある。また、海外で学び、語学を習得して、その気になればいつでも海外で生きていけるという人が、結局は日本国内でも充実して有利に生きるのではないか、というようなコンセンサス・共通認識ができつつあるからだ。


p.237

いい学校の定義とは何だろう。優れた先生がそろっていることだろうか。それとも施設が充実していることだろうか。歴史があって、出身者で成功している人が多く、知名度が高いことだろうか。授業料が高いのがいい学校だろうか、それとも安いのがいい学校だろうか。たとえばロシアのサンクトペテルブルクのバレエ学校に行きさえすれば、熊川哲也のようにプリンシパルで踊れるようになるのだろうか。トリノユベントスの練習に参加すれば誰でも中田英寿のように将来セリエAでプレーできるようになるのだろうか。ジュリアード音楽院を卒業すれば誰でもソリストとして活躍できるのだろうか。
いい学校、という言い方には、「いい学校に入っていい会社に入りさえすれば一生安泰」という古い日本社会の刷り込みの影響がある。海外の学校といってもいろいろあるけどどこに行けばいいんでしょうか?という質問には最初から勘違いがある。何を訓練するのか、何を学ぶのか、という選択と決意のほうが先だからだ。海外の学校に目を向けるのは、勉強や訓練の対象を決めたあとのほうがいい。そして、どんな学校が向いているのかは、個人の特性や性格によって左右される。厳格でアカデミックな授業が向いている人もいるし、開放的で家族的な雰囲気で才能が伸びる人もいる。


p.238
何をやりたいか決まっていないけど、とにかく海外に出て、
海外で勉強したいし、訓練を受けたい、と思っている13歳、若者は
しだいに増えつつあるように見える。


そういう人たちに対しては、「自分でそう思うのだったら、はっきりした目的がないままとりあえず海外に行くのもいいでしょう。でもリスクはありますよ」というアドバイスしかできない。


何がリスク?

海外で暮らすストレスに耐えられず、何も成果がないまま、日本人同士でつるんで遊んだだけなので語学も身につかず、ただ歳だけ取って帰国する、というようなネガティブな可能性のことだ。目的がないまま海外に出ることが悪いことなのではなくて、デザインや細工物が好きだから銀細工を勉強しにイタリアに行きたいという子のほうが、リスクが少なく有利だということである。


p.304

結論:まず人生を楽しむ、教えるのはそれから
これから求められるのは、教師の権威の復活ではなく、児童生徒とのコミュニケーション能力を持った教師である。これから、教師を目指そうとする子どもや若者には、いろいろな知識やスキルを身につけることはもちろんのことだが、どのような学校に勤めるにせよ、まず「自分の人生を充実させ、楽しむこと」を優先させて欲しい。自分で人生を充実させ、楽しんで、その上で、子どもたちと接してもらいたい。子どもたちは、実に正確に教師を観察するものだ。その教師が、人生を楽しんでいるか、あるいはつまらない人生を送っているか、見抜く力を持っている。つまらない人生を送っている教師からの指示は、子どもたちにとって単なる強制でしかない。


P.371

昔、大手のゲームソフトメーカーに話を聞きに行ったとき、「テレビゲーム制作にかかわりたい子は、たくさんゲームをやるより、本をたくさん読んだほうがいいですよ」という話を聞いた。


p.352

合コンでもてないことがリスクかどうかはビミョーなところだが(笑)、これは確かに感じる。みんな、国防は無料だと思っていないか?国が提供しているサービスだ。そのサービスを提供してくれているのは自衛官だ。単純に反戦・平和というだけでは足りない何かがあると思う。でも、その何かはもやもやしていて見えない…。


●不自由な自衛官生活
それでは、自衛官になるリスクにはどんなものがあるのだろうか。まず、規律ある生活を支えるために、自由が制限される。
(略)
●国民的な理解と敬意の不足
さらに大きなリスクとして、自衛官に対する国民的な理解と敬意が不足しているということがある。わかりやすい言い方をすると、ほとんどの男の自衛官あるいは防衛大生は合コンに出かけても、もてない。友人の自衛官幹部に聞いた話だが、男女とも、自衛官が制服で都市部のおしゃれなレストランなどに入ると、奇異の目で見られることがあるらしい。反戦・平和主義者からは基本的に嫌われているし、災害時の救助活動などでも、充分な感謝や尊敬を受けているとは言えない。そして、最近になって、最大のリスク要因が生まれつつある。カンボジアの国連平和維持活動や、イラク派遣問題における自衛官の生命の危険だ。