ポール・クルーグマン『嘘つき大統領のデタラメ経済』

嘘つき大統領のデタラメ経済

嘘つき大統領のデタラメ経済


LAから東京へ帰る飛行機の中で読了。この本の中で、アメリカの空港警備についてのコメントがありました。この飛行機に乗る前に、当然空港でセキュリティチェックを受けてきたのですが、すっごい厳しくてびっくり。まず荷物をすっごい厳重にチェック。ほとんどの人が開けられてました。で、その後は係員が1人〜2人の荷物を運んで航空会社のカウンターまで誘導して、そのままチェックイン。お客さんは一切、荷物に触れられない。日本人のお客さんは「何でこんなに非効率なんだ」と言ってましたけど、ボストン空港で飛行機がハイジャックされてNYで落とされた経験を持つ国民は、LAで飛行機をハイジャックされてハリウッドに落とされたりしたら洒落にならない(実際、そんなうわさもあるみたいだった)。
これまで、こうした公共機関(公共の安全を守るためですからね)にはアメリカ政府はお金を使ってこなかった、というのがちょうどこの本には書いてあったので、何ともタイムリーだったんだな。

以下、メモ。

p.36
正しく報道するためのルール
1.公表されている政策目標がどうであれ、それだけで政策の意図が理解できると思ってはいけない
2.真の目的は何かを知るために宿題をする
3.通常の政治のルールが当てはまると思ってはいけない
4.革命勢力は批判されると攻撃してくる

p.99

どうすれば景気回復の展望は開けるのだろうか。この質問を、小泉政権の経済政策の策定者である竹中大臣にぶつけてみた。大臣は、アメリカではよくあることだが日本では珍しい、政界に転身した大学教授であり、人気のある経済評論家である。大臣の名誉のために言っておくと、彼は問題を曖昧にしたり、ごまかしたりはしなかった。彼は、自分の政策が「供給サイド」であることを認めていた。すなわち、直面しているのは国民が十分に消費していないと言う「需要サイド」の問題であるというのに、竹中大臣は日本経済の効率化を図ろうとしているのである。それにもかかわらず、彼は改革は結果的に需要サイドをも改善すると主張していた。消費者は経済の長期的な見通しが良くなったと気がつけば、財布の紐を緩めるだろう、と彼は力説した。また、さらなる改革、つまり主に規制緩和と民営化を進めることによって、新しいビジネス機会が生まれ、それが設備投資を促進させるだろうとも主張した。

p.172
このページのコラムのタイトルは「OOPS! HE DID IT AGAIN」。もちろん、Britney Spearsの「OOPS! SHE DID IT AGAIN」のパロディ。ノーベル経済学賞を将来とると言われているポール・クルーグマンのこういう遊び心が好きだ。

p.234

これは単なる極悪非道な連中の話なのではない。事件をさらに大きくしてしまったケチな節約と、それを推奨し、強制しさえもしている社会システムの話なのである。それはテロリズムを超える問題である。何かがアメリカの政治哲学に欠けていた。つまり、アメリカは公共の安全のためにカネを払うことを拒んできたのである。
(略)
アメリカ中の空港の安全を預かっているのは、一時間6ドルで雇われている警備員たちである。それはファーストフード店の時給よりも安い。アメリカ人の生命を守る警備員はほんの数時間の訓練しか受けていないし、乗客の荷物などをチェックする検査員の9割以上が、6ヶ月以下の実務経験しかない。
(略)
ヨーロッパでは、利用客のバッグなどをチェックする検査員は時給15ドルの手当てをもらい、長時間の訓練を受けている。なぜ、アメリカは同じようにできなかったのか。
その答えは、ヨーロッパでは空港の安全は法的に強制される事柄なのであり、その費用は政府か空港によって負担されている点にある。それに対して、アメリカでは安全管理の費用は航空会社が負担している。だから航空会社がその出費を可能な限り抑えてきたことは驚くにはあたらない。航空会社を責めることはできない。その責任は、公共部門に属するはずの仕事を民間企業に負わせているアメリカ人にあるのだから。