山形浩生『新教養主義宣言』

新教養主義宣言

新教養主義宣言


山形さんの本は好きで、ネットや雑誌など、大体チェックをしているのだけど、その中でもこの本は最初の前文(なのかな?)の力強いメッセージが好きで。何となく読み返してしまう本。大の大人がおもしろがっているところを、そのまま見せてくれる書き手さんだと思います。(とか、ほめると怒られそうな人ではありますけどね・笑)

以下、また読み返したくなるかもしれない部分を中心にメモ。

p.40
「いつだって、伝えるべきなのは、その教養そのものじゃない。その教養のもつ力であり、おもしろさだ。それがわかれば、みんな黙ってても勝手に自分で勉強するようになる。いまの学校にせよ、親にせよ、教育システムのほとんどではそれができていない。伝える側に何もないせいもある。そこらへんの戦略をちゃんと考えてないせいもあるし、まあ受験体制のせいも一部は(ほんの一部は)あるんだろう。だから伝わるべきものが伝わっていない。
ぼくはそれを伝えたいと思う。それがいろんな分野、いやあらゆる分野にいろんな形で存在していることをちょっとでもいいから示したい。というより、そういうのを見てぼく自身がおもしろがっている、そのおもしろがり方を少しでも見せられればと思う。(後略)」

p.64
「結局のところ、人は腹を決めるための時間が必要なのだ。「情報が必要だ」というのは実は「時間が必要だ」と言っているだけなのだ。
恋愛となると、話はもっと明らかだろう。情報処理は何も加速しない。出会った瞬間に、相手のすべての情報がわかり、ギブスン『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫)で描かれていたような相手の完全なモデルまで提供され、「こいつとつきあうと2ヶ月くらいはむちゃくちゃ楽しいけれど、3ヶ月めにはオレのほうが飽きられてしまってひっどい目に遭うな」とかいうことまでわかったとしよう。でもそれでも「なんてったって、好きなんだもーん」である。あるいは、確率87%で脈なしだ、というのがわかったとしよう。それで?行動はなにか影響を受けるだろうか。うーん、どうだろう。それでも残り13%の確率にしがみついて、いろいろと策を練ってしまったり、相手の言うことを一言半句真に受けたりしてしまうのが惚れた弱みというやつだ。」

p.70
21世紀の生産性向上にむけて
「まず手軽な方から行こう。人の意思決定を極限まで加速するものは、なんと言っても締め切りである。会議が1時間後に迫っているときの人間の生産性というか意思決定力には、われながら驚異的なものがある。では、それを使おう。締め切りがはやくくるようにすればいい。そしてビジネスでこれを実現するには、締め切りを変えてやればいい。決算なりのサイクルを短くしてやればいいのだ。
すなわち、1年を10ヶ月にしてしまおう。そして、1週間を6日にする。端数についてはまあ好き勝手に処理すればよい。
(中略)「来週までに」とか「半年くらいで」とわれわれは気軽に口に出す。それは別に、「7日で」とか「180日で」と厳密に計算しているわけではなく、まあその程度の区切りで、ということを行っている。それを一割ほど縮めたところで、いままで可能だったものが急に不可能になることはほとんどないだろう。ということはつまり、いままで1年で可能だったものは、この新しい1年でもたいがいは可能だということだ。生産性は単純計算しただけでもいまの一割以上は増えることになる。」

p.79
スタニスワフ・レム『虚数』…読みたい。

p.85
金原克範『“子”のつく名前の女の子は頭がいい』
「メディアは人の気遣い能力を破壊してしまう!
メディアからの情報は、いつも明瞭に言語化されている。したがってそればかりに接していると、言語化されていないメッセージに対する感度がゼロとなる。すでに基本的なことは知っており、自分意必要なものをはっきり理解し、それをこちらに要求できる大人が相手なら、これは(あまり)問題とはならない。しかし、自分に何が必要かわかっていない子どもが相手の場合、これは大問題となる。必要性が言語化されないために、相手に何が必要かを気遣って察し得ない人間は、頃合を見計らって情報を提供できないからである。そういう親に育てられた子どもは、成長に必要な情報を必要なときに与えられず、その結果コミュニケーションに絶望し、好きで関心のある情報にだけ反応するようになる。必要情報(「関心ある」「好きな」情報とはまったく別物)を得るための手段もわからないまま、まともな成長ができなくなる!」

p.190
リュイン『アイアンマウンテン報告』…読みたい。

先行研究
Wright, AStudy of War, Chicago: The University of Chicago Press, 1942
カール・シュミット『パルチザンの理論』