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クリス・アンダーソン『メイカーズ 21世紀の産業革命が始まる』

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる


3Dプリンタについては、周囲で実はけっこう話題になっていて、何かワークショップで使えないかな、くらいに思ってたんだけど、この本を読んで、確かにますます「自分たちでいろいろ作れる時代になるんだな」と感じた。ブログとかが簡単にできるようになって、放送網など持たないマスではないメディアがたくさんできて、自分で情報を発信しても、実力さえあればそれがたくさんの人に届くようになったのと同じように、今度は工場を持たなくても、自分でいろいろと作れるようになる時代なんだなあ。しかも、デザインとかはデジタルデータで共有すればいいのだものね。実際、3Dデザイン共有サイトのシンギバーズThingiverseとかもあるらしいですよ。
本の中でも紹介されていた、ドールハウスのセットにはない家具を作ることができる。LEGOのセットにはない武器のアクセサリーとかも作れる。それがレゴの生態系を作って、レゴのスター・ウォーズシリーズは卒業したけど、ミリタリーオタクに育っている大人たちをお客さんとしてつかまえておける。だから、LEGO本体が作っているわけではないそれらのメイカーズたちの商品を黙認する。うーん、おもしろいなあ。

レゴの周辺に「補完的な生態系」ができている。

などが、レゴの公式フィギュアをカスタマイズするためのステッカーから特注のレゴサイズのキャラクターまでありとあらゆるものを製造している。

おもしろいなあ。そして、こういうことができるようになると、大量生産で人件費が安いから工場が外に出ていく、という状況は変わっていくはず。フォーブズ誌の発行人、リッチ・カールガードが言っているらしい、

「3D印刷は、もの作りの経済を、大量生産から、3Dプリンタを使った小さなデザインショップによる職人モデルへと回帰させる可能性を秘めている。言い換えると、もの作り、リアルなもの作りが、資本集約型の産業から、芸術とソフトウェアのようなものへと移行するかもしれないということだ。そして、この流れは、創造性に優れたアメリカに味方するに違いない。(p.114)

創造性を持ってさえいれば、iPodのコアになるデザイン部分が「Designed by Apple in California」と書かれているように、その国に富がちゃんと落ちるのだろうな。いや、おもしろい本でした。
以下、いろいろメモ。

p.80
いまなら3Dプリンタがあるから、ドールハウスの家具を自分で作ることもできる。

Thing-O-Matic。
http://www.makerbot.com/blog/

3Dデザイン共有サイトのシンギバーズThingiverse
http://www.thingiverse.com/

p.114
フォーブズ誌の発行人、リッチ・カールガード
「3D印刷は、もの作りの経済を、大量生産から、3Dプリンタを使った小さなデザインショップによる職人モデルへと回帰させる可能性を秘めている。言い換えると、もの作り、リアルなもの作りが、資本集約型の産業から、芸術とソフトウェアのようなものへと移行するかもしれないということだ。そして、この流れは、創造性に優れたアメリカに味方するに違いない。

とはいえ、3D印刷やその他のデジタル製造技術には、できないこともある。規模の経済が働かないことだ。

マインドストームの動画検索

p.133-134
ギークダッド株式会社 http://www.wired.com/geekdad/
DIYドローンズ

p.230
クァーキー Quirkyのモデル=お金の賭かった人気投票
→それぞれが自分の好きな部分をできる。デザインだけに参加もできるし、コピーなど文章系のタスクで貢献する人もいる。

p.246-
レゴのロングテール
レゴには20世紀の平気のパーツはない。でも、それも3Dプリンタで作れる。
大人たちも楽しめるようになる。レゴも黙認。レゴの周辺に「補完的な生態系」ができている。
ブリックアームズ http://www.brickarms.com/
ブリックフォージ http://www.brickforge.com/
ブリックスティックス http://www.brickstix.com/
 などが、レゴの公式フィギュアをカスタマイズするためのステッカーから特注のレゴサイズのキャラクターまでありとあらゆるものを製造している。

内田樹『最終講義 生き延びるための六講』

最終講義?生き延びるための六講 (生きる技術!叢書)

最終講義?生き延びるための六講 (生きる技術!叢書)


最終講義を含め、全部で6つの講義が収録されています。非常におもしろかった。師匠にあたる哲学者レヴィナスに会いに行った時のエピソードの、パスを蹴りこんでくる感覚とかすばらしいなあ。

僕に向かって、今脳裏に浮かんだアイディアを次々と単行本一冊分しゃべってくれるわけですから。そのときに、なるほど、こういう人だからこそ、フッサールに対する否定的な評価が出てきたんだなということがわかった。レヴィナス先生の身体は本当に熱かった。話しているうちに室温が二度くらい上がったような感じがしました。あのレヴィナスの一ページにポワン(ピリオド)がひとつもないまま続くような文章を、そのまま口でしゃべるわけですから。こっちはフランス語がろくにできないんですから、途中からはもう何を言っているか全然わからない。でも、日本からやってきたフランス語もよくわからないような若造の前で、レヴィナスはライブ演奏をしてくれてるわけです。ジョン・レノンの家に「ファンです」って挨拶に行ったら、ジョンがやおらギターを取り出して、「じゃあ、今ここでオリジナル曲一曲作って、君にそれを歌ってあげるね」と言われたら、誰だって感動するでしょう。僕の感動はそれに近いものでした。そのときに、なるほどほんものの学者というのは「いいから俺の話を聞いてくれ」という人なんですよ。自分は哲学的な荒野をこれまで駆けめぐって、それなりに必死に道を切り拓いてきた。それは後続する君たちのためにやったことなんだ。だから俺の話を聞いて、それを理解して、俺の仕事を引き継げ、と。こっちにバシバシと「パス」を蹴り込んで来るわけです。こっちに受けとる技量があるかどうかなんて二の次で、とにかくそこに誰かがいたら「パス」を出す。僕はこのレヴィナスの「そこに誰かがいたらとにかくパスを出す」というスタイルがほんとうに素晴らしいと思ったんです。学者というのはこうでなければいけない、と。そのとき深く確信したのです。(p.90-91)

こうありたいなあ、と思います。
あと、教育的なところとしては、合理的に思考して、ストーリーを組み立てる官僚が少ない、という話が紹介されていました。

中国政府内に情報源なんか持ってなくても、公開情報だけでも、中国政府の中で、どんなことが懸念されているかくらいのことはわかります。そして、合理的に思考できる統治者であれば、それを解決するために、どのようなマヌーヴァーを思いつくかくらいのことは推理できる。
それがどうも日本の専門家は苦手であるらしい。特派員や国際部のジャーナリストやインテリジェンスの専門家は僕の何百倍の情報量を得ているんでしょうけれど、その情報を分析する力は、かなり貧弱ですね。断片的なピースから全体のピクチャーを描く能力が低い。
たぶん、学校教育では、そういう訓練を全然しないことと関係があると思います。シャーロック・ホームズとか、オーギュスト・デュパンとか、明智小五郎とか、名探偵のお話は子どものときから読んでいるんですから、現場に落ちているわずかな断片から犯行を推理することが推理だということはご存じなはずなんです。国際関係の専門家も、名探偵にならって、いくつかの断片的な情報から、それらを全部繋げて説明できる「ストーリー」を思いつくということはできていいはずです。
でも、この「推理」ということが日本のエリートはほんとうに苦手なんです。というのは、推理というのは、どれだけデタラメな読み筋を思いつけるかという能力だからです。定型的な思考の枠をどれだけ超えられるか。「ありそうもない話」をいくつ思いつけるか。それが推理力の基本に来るんです。いわば、推理力とはどれだけ標準から逸脱できるかを競うことなんです。これが日本の秀才にはできない。構造的にできない。だって、標準から逸脱しないことによって彼らは今日の地位にたどりついたわけですから。その成功体験に固執する限り、推理ということは彼らにはできないんです。(p.123-124)

推理小説などのエンターテインメントとか、脱出ゲームとかと組み合わせて、こういう「ストーリーを作る」「ありそうもない話をたくさん思いつく」というのを学習目標にしたカリキュラムが作れないかなあ、と思ったり。
あと、北方領土問題と南方領土問題の話とかもおもしろかった。
以下、メモ。

金井壽宏・楠見孝『実践知 -- エキスパートの知性』

実践知 -- エキスパートの知性

実践知 -- エキスパートの知性


実践知は、学校知との対比として使われている言葉です。学校で学ぶ知だけでは足りないんじゃないか?っていう問題意識があるので、どうすることができるのかな?と気になって読んだ。とてもおもしろかったな。

実践知を獲得するには、経験から学習する態度が重要。そのための要因は主に4つに分けることができる(p.46-47)

  1. 挑戦性
    • 新しい経験に対して開かれた心、成長しようとする能力や達成動機、ポジティブな学習に向かう冒険心。それは、挑戦的(ストレッチ)課題、つまり能力を少しだけ越えた課題へのチャレンジという行動に現れる。
  2. 柔軟性
    • 環境への適応能力であり、ほかの人の意見や批判に耳を傾けて、新しい考え方や視点を取り入れたり、相手に応じた柔軟な対応をすること、誤りから学習することも含まれる。
  3. 状況への注意とフィードバックの活用
    • 職場の環境を理解するために状況に注意を向けて、フィードバックを探索するというモニタリング活動をさす。状況への注意(situation awareness)は、初心者は注意容量や作業記憶の限界のため、負荷が大きく、その注意は不完全でエラーを伴う。さらに、初心者は情報処理のコントロール方略が乏しいため、情報収集や重要な情報の検出が劣り、経験から適切な学習ができないことになる。
  4. 類推
    • 新しい状況の問題解決において、過去の類似経験を探索し利用する側面と、部下や同僚に類似した状況の過去経験を伝達する側面がある。

なるほどなるほど。こうした要因を内包したカリキュラム、というのはアイデアとしておもしろそう。学校の教室では確かにこのあたりは難しかろうな、と。
それと、省察(reflection)がとても大切だ、ということが書かれています。省察も、「振り返り的省察(retrospective reflection)」と「見通し的省察(anticipatory reflection)」と、両者の中間である「行為の中での省察(reflection in action)」が説明されていたりする。この省察についても、教室ではあまりされていないよなあ。
以下、他にも勉強になるポイント多し。で、メモ。

p.5-7
実践知
=学校知(学業に関わる知能、学校の秀才がもつ知能)との対比として認識される

人の知的な能力=知能(Intelligence)は伝統的に3つの段階の定義がある:

  1. 知能は、広い意味では環境への適応能力として定義されている。生き残るために必須の能力。
  2. 適応能力をもう少し精密化して、学習能力として捉える定義。さまざまな情報の処理を自動化し、正確に、速く遂行する能力であり、熟達化にも関わる。メタ認知能力やスキル・知識の獲得が関わる。
  3. 知能の狭義の定義であり、知能を抽象的思考能力(数、語の流暢さ、空間、言語、記憶、推理)としてとらえるもの。


これらは学校を終えてからの職場での業績についての予測力が低い。そのため、仕事をはじめとする実践場面における知能を説明・予測するために提唱されたのが、実践値。

p.7-8
#ガードナーの多重知能説を紹介。

p.46-47
実践知を獲得するには、経験から学習する態度が重要。そのための要因は主に4つに分けることができる:

  1. 挑戦性
    • 新しい経験に対して開かれた心、成長しようとする能力や達成動機、ポジティブな学習に向かう冒険心。それは、挑戦的(ストレッチ)課題、つまり能力を少しだけ越えた課題へのチャレンジという行動に現れる。
  2. 柔軟性
    • 環境への適応能力であり、ほかの人の意見や批判に耳を傾けて、新しい考え方や視点を取り入れたり、相手に応じた柔軟な対応をすること、誤りから学習することも含まれる。
  3. 状況への注意とフィードバックの活用
    • 職場の環境を理解するために状況に注意を向けて、フィードバックを探索するというモニタリング活動をさす。状況への注意(situation awareness)は、初心者は注意容量や作業記憶の限界のため、負荷が大きく、その注意は不完全でエラーを伴う。さらに、初心者は情報処理のコントロール方略が乏しいため、情報収集や重要な情報の検出が劣り、経験から適切な学習ができないことになる。
  4. 類推
    • 新しい状況の問題解決において、過去の類似経験を探索し利用する側面と、部下や同僚に類似した状況の過去経験を伝達する側面がある。

p.48-49
経験から教訓を引き出し、実践知を獲得するには、省察が重要な役割を果たしている:
経験からの学習における省察には、2つの時間的方向がある。:

  1. 振り返り的省察(retrospective reflection)
    • 過去の体験に意義や意味を解釈して深い洞察を得ること。
  2. 見通し的省察(anticipatory reflection)
    • 未来に向けて、実践の可能性についての考えを深めること。


さらに、両者の中間である行為の中での省察(reflection in action)もある。

p.49-53
批判的思考:

  • 人が仕事において状況を適切に分析し、実践知を獲得し活用する際に重要である
  • 基準に基づく合理的(理性的・論理的)で偏りのない思考。
  • 「相手を批判する思考」とは限らず、むしろ自分の推論過程を意識的に吟味する省察的思考。


構成要素は3つ:

  1. 明確化:問題解決や意思決定に先立って、問題を発見したり、主題、仮説、前提に焦点を当ててそれらを明確化する。さらに、他者の主張であれば、結論や理由を同定し、用語の定義や事例を求めたりする。
  2. 判断の基盤の検討:情報源の信頼性や、調査内容の妥当性や勝ちを評価する。
  3. 判断:拝啓事実、結果、選択肢に基づいて、演繹や帰納による判断、およびバランスや重要度などの価値判断もふまえて行動決定する。


これら3つの要素を、実践知の獲得と活用において実行するだけでなく、次のような批判的思考の態度(平山・楠見[2004])をもつことが大切:

  1. 明確な主張や理由を求める「論理的思考態度」
  2. 状況全体を考慮し、開かれた心をもち、複数の選択肢を探す「探求心」
  3. 信頼できる情報を活用する「客観性」
  4. 証拠や理由に立脚する「証拠の重視」

p.70-71「
筆者らが、優れた経営者のリーダーシップの持論を、暗黙知の海の中から、形式知の場にすくい上げるために、行なう手順としてよく利用しているのは、次のようなシークエンスである。

  1. 経営者から、今日のようにうまくリーダーシップを現実に発揮できるようになるまでにくぐってきた一皮むけた経験を、少なくとも3つ以上聞き出す。注意点としては、話が抽象論にならないように、いつ、どのような立場で、誰とともに、いったい何を成し遂げたのか、できる限り、具体的なイベント(出来事)として聞き出す。
  2. それぞれの経験からどのような教訓を得て、(可能なら)それをその後のキャリアでどのように活かしているかを、省察して語ってもらう。
  3. 経験からの教訓のすべてが、リーダーシップの持論を形成するわけではないので、経験からの教訓のうち、どれがどのように、現時点で発揮できているリーダーシップのもとになっているか、選んでもらう。
  4. 教訓のうちリーダーシップに関わると思われるものが、その経営者のリーダーシップの持論であることを、確認する。
  5. それぞれの経験をくぐったときに、どのような上司、または(社長やトップ直轄プロジェクトならば)上司よりさらに上層の人、さらに、(共同研究や共同開発などの場合には)社外の関係者から、リーダーシップという観点からどのような薫陶を受けたかについても、具体的な出来事を通じて聞き出す。それが反面教師にあたるような上司などの場合でも、その人から薫陶を受けたことが、4の持論とどのように関わっているか聞く。
  6. 研修が一皮むけた経験になることは稀であるが、受講した研修やセミナー、あるいは自己啓発で読んだ経営学やリーダーシップの書籍から学んだことが持論の内容に、どのように関わっているかも、最後に確認する。」

p.79-80「
ここに罠が一つある。経験で身につくのなら、OJTでいいのだといって、OJTだけですませて思考停止してしまうことである。問題は、OJTという美名のもとに、意図的な経験学習がなんら促進されていなかったら、何もしていないに等しいということである。単に経験するだけでは、有効な持論を導くことはできず、後で述べるような組織的継承につながらない。ワインを熟成させるように、経験を省察する(reflect)ことが必要である。」

p.80-81
省察の三層:

  1. 行為の中の省察(reflection-in-action)
    • 行為の最中出会っても考えることがある。行為の最中に驚き、それが刺激となって行為について振り返ることもある。
  2. 行為に関しての省察(reflection-on-action)
    • 行為そのものを事後に省察する。予期しない結果が生じたとき、行為の中の知をどのように活用すればよかったかを発見するために、行為に関して省察する。
  3. 行為の中の省察に関しての省察(reflection on reflection-in-action)
    • メタ認知的な概念。省察プロセス自体を省察する。

p.304-311
熟達化への動機づけ要因(モティベータ)

  1. 有能感=うまくできるようになる。
  2. 熟達化のレベルを高めた結果もたらされるものの価値=ある領域で熟達することがもたらす二次的な効果(用具性、instrumentality)。熟達することがポジティブな所結果(広義の報酬)をもたらす主観的確率を、用具性とよぶと考えてよい。金銭的報酬だけでなく、承認されたり、フォーマルに表彰されたりも含む。
  3. 自己決定と事故イメージの高揚に基づくモティベーションの持続=自己決定の感覚が高いほど、より強固な意志力の基盤が生まれ、それらが内発的に動機づけられた行動を引っ張っていく。

p.311-317
熟達化へのモティベーションの自己調整

  1. 緊張系を通じた自己調整
    • このまま動かないでいると、まずい、怒られる、危ない、というときに動く。
  2. 希望系を通じた自己調整
    • 作業が進捗していき、がんばれば終わりそうだという希望がモティベーションを生む。
  3. モティベーションの自己調整のための持論
    • うまくできない理由を外に求めない。自分の努力次第でなんとかできるはず、と思うこと。
  4. 関係系を通じた自己調整
    • 他の人々からの刺激に自分をさらす。チームでの活動も。

p.337
世阿弥『花鏡』において、初心への言及があるので、チェック。

ノルベルト・ヘーリング/オラフ・シュトルベック『人はお金だけでは動かない』

人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生

人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生


経済学って、「人はすべて合理的に行動する」ことが前提になっているように思えるけれど、行動経済学みたいな新しい分野を考えると、実はそんなことはない、というのも取り入れてどんどん変わっていっているのだなあ、と思う。おもしろかった。
保育所に遅れてくる保護者向けに罰金制度を取り入れたら、遅刻者が増える話とかおもしろい。あと、信頼ゲームを使った実験もおもしろい。
失業と戦うには、問題のある環境にいる子どもたちのためにもっと手をつくさなければならない、という実験事例も紹介されていました。

あるアメリカの実験では、機能不全家族の未就学児を特別支援教育クラスに6ヶ月間通わせた。研究者たちはこの子どもたちの人生を数十年にわたって追跡し、プログラムに参加しなかった対照群との比較をおこなった。その結果、特別な配慮を受けた子どもたちのほうが高学歴を修め、高い所得を得、持ち家率が高く、生活保護を受けたり刑務所に入ったりする割合が低いことがわかった。この就学前プログラムの「社会収益率」は、なんと17%にものぼると算出された。つまり不利な状況にある子ども向けのこうしたプログラムに1ドル投資するごとに、政府や社会全体や子ども自身が年間で17セント余計に収入を得るか、17セント費用が減るのだ。5%未満の利率で借金をする政府にとって、この配当は悪くない。
生後4ヶ月から8歳までの下層階級の子ども向けの別の指導プロジェクトを継続して評価中の研究によれば、乳児期から開始されるプログラムはさらに効果が高いようだ。(p.68-69)

教育で社会は変えられるはずだ、と思っているけれど、国や地域や学校の予算を使うことを考えると、こうして数字でどういう結果が見込めて、それがきちんと実現できたのかを評価することが大事だよなあ。教育経済学というジャンルについても、しっかり勉強してみたくもあります。
以下、メモ。

p.5
経済学者ジョーク
「経済学者は過去5回の不況のうち、9回を予言した」
「経済学は、ふたりの研究者がまったく正反対の結論に達してノーベル賞を受賞した唯一の学問である」

p.20-21
経済学者が保育所へ行くと…(ウリ・ニージーとアルド・ルスティキーニ)

保育所が子どもの迎えに遅れてくる保護者に罰金を課すとどうなるか?

経済理論によれば、迎えに遅れる人数は減ることになる。保護者の側に時間を守ろうという気持ちが生まれるから。

実際に、イスラエルの複数の保育所で検証したところ、逆の事態が起きた:
罰金が導入された途端、遅刻が有意に増えた。それどころか、罰金が廃止されたあとも遅刻率は高いまま。

保護者と保育所との社会関係のなかで築かれた暗黙の盟約を罰金が変えた:
遅刻による勤務時間外の保育は市場取引ではなく、好意だったもので、揉んだは道義と礼儀の問題だった。これが、罰金によって、遅れる行為に値段がついた。その結果、遅刻は公認された行為になった。

p.22
「信頼ゲーム」を使った実験(マティアス・サッターとマルティン・コッハー)

  • 実験参加者Aは10ドル受けとり、そのうちのいくらを未知の実験参加者Bに分けたいか決める。
  • 実験者はその金額を3倍にしてBにわたす。
  • Bはもらったお金のうちいくらをAに返すか決めることができる。

  • 双方が協力すれば、AもBも見返りが大きくなる。(ただし、Bが同調して利益を分配してくれるとAが確信していることが条件になる)


他社への信頼と本人の信頼性は年齢とともにほぼ直線的に増加する。8歳は10ドルのうちわずか2ドルしか相手に分けず、66セントしか返してもらえなかったため、結局1ドル34セント失った。
16歳は平均してほぼ半額を手放したものの、それでも30セント失った。勤労社会人はもっとも高額の6ドル58セントを手放し、それに2ドル45セント上乗せした額を受け取った。退職者になると、また少し金額が下がる。

研究者たちは「全体の傾向として、信頼は成人のあいだでのみ報いられる」と結論づけた。

p.32「
昔ながらの経済学者は、だれもが効用を最大にしようと励み、自由に使えるお金と自由に消費する機会に恵まれるほど効用が増すという前提から出発する。この前提がほんとうなら、親の倍の所得や富を手にした世代は、自分の生活にはるかに満足しているはずだ。
ところがそうはいかない。イースタリンなど複数の研究者の研究成果によると、貧しい国だけに限れば、たしかに生活全般の満足度は平均所得の増加にともなって高くなる。しかし、最低生存水準に達したとたん、この相関関係はたちまち崩れてしまう。イースタリンは、所得がこれ以上増えても人々の幸せにほとんど寄与しなくなる上限を今日のドル(購買力平価)で1万5000~2万ドルとした。
ますます多くの経済学研究者がこの現象の原因究明に乗り出している。」

p.68-69「
あるアメリカの実験では、機能不全家族の未就学児を特別支援教育クラスに6ヶ月間通わせた。研究者たちはこの子どもたちの人生を数十年にわたって追跡し、プログラムに参加しなかった対照群との比較をおこなった。その結果、特別な配慮を受けた子どもたちのほうが高学歴を修め、高い所得を得、持ち家率が高く、生活保護を受けたり刑務所に入ったりする割合が低いことがわかった。この就学前プログラムの「社会収益率」は、なんと17%にものぼると算出された。つまり不利な状況にある子ども向けのこうしたプログラムに1ドル投資するごとに、政府や社会全体や子ども自身が年間で17セント余計に収入を得るか、17セント費用が減るのだ。5%未満の利率で借金をする政府にとって、この配当は悪くない。
生後4ヶ月から8歳までの下層階級の子ども向けの別の指導プロジェクトを継続して評価中の研究によれば、乳児期から開始されるプログラムはさらに効果が高いようだ。」

失業と戦うには、問題のある環境にいる子どもたちのためにもっと手をつくさなければならない。

はてなブログ1周年おめでとう!

はてなブログ1周年おめでとう! id:hatenablog

もう1年です。着々と新機能が追加されていくのが嬉しい。あとはメインブログをいつダイアリーから移すかですな…。タイミングを見計らい中…と言っている間に1年が経ってしまいましたが。

これからもよろしくお願いします。

西村行功『先が見えない時代の「10年後の自分」を考える技術』

「10年後の自分」を考える技術 (星海社新書)

「10年後の自分」を考える技術 (星海社新書)


「10年後の自分」を考えることって、そんなに簡単じゃないよね…。でも、そういうのを想像することって大事だよなあ、と思うわけです。シナリオ・プランニングの技法を使って、「どんな自分になりたいか」を考える方法を紹介してくれます。ちょっと、じっくり時間を作ってやりたいな、と思った。

p.16-25
私たちを支配する「3年時計」の呪縛、理由は3つ:
1.10年という時間軸で考えた経験がない
 →学校は3年刻み。仕事も「3年間は我慢しろ」など
2.楽観的に考えているから
 →今ほど、「未来を考えないことがリスクになる」時代はない
3.どうやって考えたらいいのかわからない
 →不確定なことが多すぎる、と思考停止になっている

p.28-31
未来思考のベースになるもの=シナリオ・プランニング

必要な力は3つ:
1.モノゴトをつなげて考える「つながり思考力」
 →因果関係を考えること
2.つながりをもとに未来を思考する「先読み力」
 →「単一の未来」ではなく、「複数の起こりえる未来」を考える
3.修正を前提に決断する「一歩を踏み出す行動力」
 →不確実な要素が多いが、動かないと見えてこないことも多い
  どこまで決めて、どう動き始めるかが問題だ

p.42「
シナリオ・プランニングの真髄は、漠然と「こうあってほしい未来」を思い描くことでも、「こうなるに違いない!」と未来をピンポイントで予測することでもなく、「起こりえる複数の未来」を想像力を働かせて真剣に考え、その対処法を事前に考えておくことにある。
(略)
シナリオ・プランニングとは、こうした「たら・れば」について真剣に考える思考法だと言い換えることもできるだろう。」

p.70「
「Aが原因となってBが起きる」という因果関係に達するためには、
1.AとBの変化に相関関係がある
2.Aが起きたあとにBが起きる
3.Bの原因は、A以外に考えられない
これら3つのことが同時に言えなければならない。」

p.87-88「
理解してほしいことは、目の前のちょっとした変化や違いに「あれ、おかしいな?」と気づき、背後にある因果関係をつぎつぎとつなげていって、一段高いところから俯瞰して全体の構造を見てみると、思ってもみなかった“本質的なもんだい”がそこに現れることがある、ということだ。」
#システム思考についても参照すること。

p.204-205「
シナリオ・プランニングは「未来予測」と混同されがちだが、「予測」という言葉には「正解を当てる」というニュアンスが含まれている。
これだけ不確実性が高い地代に、正解なんてものは誰にもわかりようがない。
未来をピンポイントに予測することは不可能だという考えをアタマに叩き込んでおく必要があるだろう。(略)
学校でもこういったベーシックな考え方を教えておくべきだろう。
これまで、多くの未来予測が外れてきた。
「蓄音機の発音はなんのビジネスチャンスも生み出さないだろう」(1880年、トーマス・エジソンが語った言葉)
「世界中でのコンピュータ需要はせいぜい5台程度であろう」(1943年、IBMのトーマス・ワトソンが語った言葉)
「すでに50車種以上の輸入車がひしめき合う米国市場で、日本車が大きなシェアを占めることはないだろう」(1968年、『ビジネス・ウィーク』が日本車の市場参入にあたって掲載した言葉)
「個人が家庭でコンピュータを使う理由など、どこにも見当たらない」(1977年、コンピュータ企業・DECのケン・オルセンが語った言葉)
古い話ばかりではない。たとえば、携帯電話の加入者数は、2000年では1000万人程度だと予測されていた。
これは1992年に予測された数字だが、当時の加入者数が170万人だったことや、当時は「携帯・自動車電話」と呼ばれ、大きな電話機だったことを考えれば、1000万人でもかなり楽観的な予測だったと言えるだろう。
しかし現実には、5000万人を超える結果となった。5倍も読み違えたのだ。」

p.214
シナリオ・プランニングで先読み力を使うためには、なるべく「具体的に」考える。
5W2H:<誰が><いつ><どこで><何を><なぜ><どのように><いくらで>

p.239
「10年後の自分(生活や人生)にとっていちばんインパクトが大きい不確実性を見つける」

p.242-243
シナリオ・プランニングの例。仮説も含めて、自分なりの「考えるべき大きな不確実性」について、思考してみる。

ポイント

  • 主要な「変化ドライバー」が、確実性の高い要素(□)なのか、不確実性の高い要素(○)なのかを判断する
  • 変化ドライバー間の因果関係に着目し、矢印で「つながり」の仮説をつくる。複数のつながりがあっても良い。
  • 最終的に矢印が集まる先が、不確実要素①「就業環境の動向」であり、この因果関係図から、不確実性①がどのような構造で成り立っているのかがわかる。
  • また、「就業環境の動向」がさらにどのような結果(未来の「幅」をもたらすのかを考え、示す(「就業環境が激変」から「就業環境は大きく変わらず」までの「幅」)。

p.255-259
未来ストーリーを過去形で語る。

変化ドライバーを列挙して終わるのではなく、必ず「ストーリー」にまですること。
列挙や箇条書きのままでは、「なんとなくわかった風」で終わりがち。ストーリーにすると、「論理的に成り立たないものは、実は繋がらない」ことに気づきやすくなる。
=ストーリーという「強制発想」法を利用して、「論理的なつながり度」をチェックする。

田村耕太郎『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』

君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?

君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?


とても刺激的な本でした。東大も、京大も、早慶も、別にそれぞれが悪いとは思わないけれど、でもそこを飛び越えてどんどん世界へ出ていく人は増えていくのだろうなあ。海外の、例えばアメリカのハーバードやMITの講義を、Open Cousewareでどんどん受講できるようになって、世界中の受講者たちとFacebookなどのSNSでつながって討論して…となっていくと、リアルな大学、講義、ゼミって、何に価値を置くのかというのは真剣に考えなくちゃダメですよね。
最初に書かれている、この本を書いた理由(p.2-5)は大賛成です。

  1. 「君らはこんなワクワクする世界を見ずに死ねるか?」と思うから。
  2. これからは外に出ないと生きていけなくなる事実を、正確に伝えたいから。
    • グローバル化された日本社会をやりくりするのは世界に出たことのある人物でないとできない。言葉だけではなく、多様な背景を持つ人材に囲まれた時の対応力や人間関係力も学ばなければならない。
  3. 「しっかり“詰め込んで”から外に行け」と言いたいからだ。
    • 何でもかんでもリスクを取ればいいというものではない。準備をしっかりしたうえでリスクを取る。内容がない人間がリスクをとってもよりひどい状況に陥る可能性が高い。

それから、ハーバードビジネススクールのある教授がおっしゃたと、石角友愛(いしずみともえ)さん*1紹介されている言葉(p.97)もいい。

彼(ハーバードビジネススクールのある有名教授)は、こうも言いました。
“This is a serious place for serious people.”(ここは、真剣な人のための、真剣な場所だ)
真剣に、世の中に問いかけていきたい。
答えがすぐ出ないとしても、もがきながらも、真摯な思いをぶつけていきたい。
そして自分自身を深く追求したい。
海外に出て学ぶことの本質が詰まっている至言だと思います。

今の日本の大学で、今の日本の教育機関で、先生方がこんな言葉を真剣に言える場所は多数派じゃないんじゃないかな。こうした言葉を言える先生のもとで学べる学生は幸せ。そうした幸せな学生を増やしたいな、と思った。
以下、メモ。

p.2-5
この本を書いた理由:

  1. 「君らはこんなワクワクする世界を見ずに死ねるか?」と思うから。
  2. これからは外に出ないと生きていけなくなる事実を、正確に伝えたいから。
    • グローバル化された日本社会をやりくりするのは世界に出たことのある人物でないとできない。言葉だけではなく、多様な背景を持つ人材に囲まれた時の対応力や人間関係力も学ばなければならない。
  3. 「しっかり“詰め込んで”から外に行け」と言いたいからだ。
    • 何でもかんでもリスクを取ればいいというものではない。準備をしっかりしたうえでリスクを取る。内容がない人間がリスクをとってもよりひどい状況に陥る可能性が高い。

p.31
佐々木インターナショナルアカデミー
http://www.sasaki-international-academy.com/

p.38「
成功の一つのカギにライカビリティ(Likability:好感度)というのがある。愛嬌とでも言おうか?嫌われるより好かれる方が、当たり前だが、絶対何倍も有利だ。日本人の好感度の高さは財産だ。日本人だと言うだけで、信用され、好感を持たれ、人気者になれる。成功への一つのパスポートを生まれつきもらっているようなものだ。だから私が「日本人に生まれて金メダル」だと思うのだ。」

p.97「
彼(ハーバードビジネススクールのある有名教授)は、こうも言いました。
“This is a serious place for serious people.”(ここは、真剣な人のための、真剣な場所だ)
真剣に、世の中に問いかけていきたい。
答えがすぐ出ないとしても、もがきながらも、真摯な思いをぶつけていきたい。
そして自分自身を深く追求したい。
海外に出て学ぶことの本質が詰まっている至言だと思います。」
石角友愛(いしずみともえ)さん:アメリカ・グーグル本社勤務
※『私が「白熱教室」で学んだこと』の著書がある

p.130-131
英語塾LOGOS
http://logos-edu.jp/

ルートH
http://rt-h.jp/

*1:アメリカ・グーグル本社勤務。『私が「白熱教室」で学んだこと』の著書がある